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[第008話]兎角この世は合縁奇縁(中編)

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【合縁奇縁】
読み:あいえんきえん
意味:不思議な巡り合わせの縁のこと。友人・知人・パートナー・推し。出会いも別れも「縁」が織りなす物語。
(参考:日本漢字能力検定協会『漢検四字熟語辞典』)
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<前編はこちら>


《前編の続き》

今年の2月に出会った方達の話。
秋葉原で二人組の漫才師に会った私。漫才をする目的を知り、気になりながらもその場から逃げるように帰ったのでした。

4.去来

さて、帰宅してから私はその二人組のことをググり、Wikipediaを調べ、Twitter(当時)を探し、ブログを見つけました。
秋葉原で何度か路上ライブをやっていること、チケットを売る挑戦は少し前から続けていたこと…。そんなことを知り、とても陳腐な言い方ですが、「すごいなぁ…」と思いました。

たとえば「○日に■■でライブやります!」や、「CD買ってください!」というストリートライブをされる方はよく見かけますが、具体的な数値目標を掲げて突き進むタイプのストリートライブは、もしかしたら私は初めて拝見したかもしれません。

(もう400人もチケットを買ってるってことは、それだけ思いに共感したお客さんがいらしたってことだよな…)
(なんか、本当に2,000枚チケット売り切りそうな雰囲気があったな…)
(チケット買えばよかったかな…)

そんな思いが去来していました。
どんなに考えたところで、7か月先に入りそうな予定なんてすぐには分からない…。だったら先にこのライブの予定を入れてしまおう…。

私は次にあの二人組が秋葉原に来る日を調べ、再び二人組に会いに行くことにしました。

5.再会

数日後。私は秋葉原の広場に身を隠していました。
正直、かなり緊張していました。二人組を見つけたとしても、どうやって声をかければいいのか、そもそもどうやって近づくのが自然なのか全然分からなかったからです。

二人組は、この日もあの時と同じ場所にいました。
一人は先にいらしたお客さんに対応中。私はもう一人に意を決して声をかけることにしました。

「こんにちは…。実は私、5日くらい前にこの広場でお二人にお会いして漫才を作っていただいた者です」
「あの…あれからいろいろ考えて、やっぱりチケット欲しいな、と思ってまた来たんですけど、チケットって買えますか…?」

チケットを手売りしている方からチケットを買えないわけはないのですが、とにかくこのときは緊張しており、自分でも何を言いたいんだかよく分からない状態に陥ってました。
ほぼ初対面に近い方に自分の意思を伝えることも、私にとっては小さな挑戦でした。

その後、チケットを購入して、また即興漫才を見せていただいたことは覚えているのですが、その他にどんなやり取りをしたのかは正直あまり思い出せません。もしあの二人組がその時のことを覚えているようなら、私が聞きたいくらい。
ただ、「一度チケットを買わずに帰ったけどまた来た人」という印象だけは残せたような気がしています。いつの間にか「現在の仲間」のボードに書かれた人数は1人増えていました。

広場に立つ二人組は、この日もいろいろなお客さんを呼び込んでいました。そんな姿を目に焼き付け、買ったばかりのチケットを手帳に挟みながら、私は秋葉原をあとにしました。

6.決意

チケットを買ってさらに数日後のある夜。私は再び秋葉原を通りました。本屋に立ち寄り、電車の乗り換えで歩いていたところ、広場とは駅を挟んで反対の場所であの二人組がチケットを売っているところに遭遇します。
私がチケットを買った時より、「現在の仲間」の人数は70人くらい増えていました。

その時、本屋で買っていたのは漢字検定の本。
第000話(自己紹介記事)で「(漢検を受ける)きっかけとなった出来事」と書きましたが、その出来事とはこの二人組との出会い。

もしかしたら、突き進めば私も何か目標を達成することができるんじゃないか…。私は二人組の挑戦に触発され、10年以上ぶりに漢字検定に挑戦することを決めていました。そして、自分の退路を断つためにTwitter(当時)でも「漢字検定を受けます」と宣言しました。

とはいえ、挑戦しようとしている級は準1級。合格点には到底及ばないまま3回不合格となり、それからずっと10年以上勉強してこなかったわけで、合格できる保証は全くありませんでした。

「大きいことを言ったけど、このまま合格できなかったら、私は二人組の挑戦に水を差してしまうかもしれない…」
これは私の勝手な思い込みに過ぎないかもしれませんが、二人組にとっては自分たちの挑戦を刺激にされた上、「すみません、お二人の挑戦する姿に刺激されて私も漢字検定を受検したんですけど不合格でした…」なんて話を聞いたのではたまったもんじゃないはず。
漢検に合格してライブも観に行きたいし、迷惑かもしれないけれどお二人の挑戦をこれからも勝手ながら応援したい…。まるで自分の心に誰かが入り込んでくるような感覚でしたが、そんな心境になったのは初めてでした。

試験は6月。漢字検定準1級は年に3回しか受検機会がなく、6月の次の試験は10月なので、ライブまでに合格するためのチャンスは1回だけ。
(級によってはCBT方式、コンピュータを使って任意の日程で受検できる場合もありますが、準1級にはそれがありません)
この1回に、全部を懸けるしかありません。

試験までの3か月、私は勉強しました。
仕事の昼休み中に『漢検四字熟語辞典』を開きながら四字熟語をノートに書き取り、通勤中の電車内で参考書の読み問題を只管解き続け、帰宅後には模擬問題集の問題を解き続けました。傍から見れば「いったいどうしたんだ」と思われたに違いありません。「何で急に漢字検定受けようと思ったの?」と聞かれたこともありますが、「まぁ…何か急にもう1回受けてみようって気になったんだよね」と答えていました。嘘はついていません。

そして試験の日。私はその時持っていた全力を出しました。
悔いはありませんでしたが正直当落線上。不合格も覚悟していました。

《後編へ続く》

(2023/12/20)


<後編はこちら>

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