読書感想文『死なないための暴力論』

 森元斎
 集英社インターナショナル
 2024年

 アナキズム研究者であり現職の哲学・思想史教授。暴力の思想史を俯瞰し本書としての「暴力」を定義、ヒエラルキーの上(国家や権力など)からの暴力、ヒエラルキーの下(民衆の抵抗)の暴力などを史実から紹介し、「反暴力」・・・暴力の在り方と共存についてまとめる。
 
 暴力とはなにか。まずその実態を明らかにするべく、ソレルやベンヤミンといった思想家たちの暴力の論考を参照。また非暴力を謳うマンデラ、ガンジー、キング牧師などの活動家の実際の行動を丹念に洗い出す。
 主に「集団の暴力」の種類の事例を豊富に用い、その根幹と、運動の経緯を明らかにする暴力批評。

 また批評だけにとどまらず、EZLMやロジャヴァ革命の例をとり、「反暴力」の先に何があるか、「反暴力」とはいったいどのような社会の上に成り立つものかを思索する。

 非常に良い読書体験だった!
 ともすれば一方的な国家(というか、国家に紐づくすべて)批判に、ともすれば一方的な社会運動批判になりがちな暴力論を、ひとつひとつの事例と実際上の運用を見つめ直すことにより「反暴力」という枠組みを見つけ出す。暴力を振るうか振るわないかの二択ではなく、「反暴力」という可能性を示唆したことは、本書が提示した大いなる希望であると感じる。

 

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