特許出願の「みなし取下げ」
特許に関し「みなし取下げ」や「取下擬制」という、日常では耳慣れない用語があります。中小企業の方々だけでなく、大企業でも部署によっては日頃から特許に携わっているわけではないので、初めて特許に携わるというような場合、「みなし取下げって何?」と疑問に思われる方が多いと思います。そこで、「みなし取下げ」について、簡単に説明しようと思います。
1.特許出願しただけでは権利化できない
特許を取得するためには、まず、どのような背景のもと、どのような発明をし、その発明は具体的にどのようなものでいかなる効果を発揮し、かつ、その発明のどの範囲について権利化したいのか等々、様々なことを文章や図面にして特許庁に「特許出願」しなければなりません。
しかし、特許出願しただけでは特許を取得することはできません。特許を取得するためには必ずしなければならない手続があります。
それが、「出願審査の請求(出願審査請求)」です。
つまり、特許出願した後、特許庁長官に対して出願審査請求することで、特許庁の審査官が特許出願を審査します。そして、審査官が、この特許出願が所定の要件を満たしていると判断した場合(厳密には、審査官が拒絶の理由を発見しないとき)、特許査定が出されます。更に、特許査定後、所定の登録料を特許庁に納付することで、ようやく特許を取得できます。
このように、特許出願しただけでは権利化はできません。
権利化するためには、出願後に「出願審査請求」することが必要になります。
2.出願審査請求の期限に注意
ここで重要な点は、出願審査請求できる期間には限りがあるということです。
つまり、特許出願の日から、原則として3年以内に出願審査請求しなければなりません。
仮に、特許出願の日から3年以内に出願審査請求をしなかった場合、その特許出願は「取り下げたもの」とみなされます。
これが、「みなし取下げ」や「取下げ擬制」と呼ばれるものであり、みなし取下げされた後はもはや特許を取得することができません。
つまり、全ての特許出願が特許になるわけではなく、出願後に審査請求し、審査官による審査を経て拒絶がない特許出願でなければ特許にはなり得ないということです。
したがって、特許を取得したい場合、特許出願の日から3年以内に出願審査請求をしなければならない、という点を忘れてはならないことになります。
なお、出願日から3年が経過した後であっても、
分割出願した場合
変更出願した場合
実用新案登録に基づく特許出願をした場合
には、例外として、新たな出願日から30日以内に限って出願審査請求できます。
また、出願審査請求を出願日から3年以内にできなかった場合において、その原因が予測ができないものであった場合(例えば、天災地変など)も、救済措置として出願審査請求できる場合があります。ただし、この場合、特許庁において本当に救済すべきか否かの判断がなされ、救済が認められない場合、結局、出願審査請求できない場合もあるので注意が必要です。
3.なぜ「みなし取下げ」される特許出願があるのか?
特許を取得したいと考えて特許出願したのに、なぜ、「みなし取下げ」されているのでしょうか?
様々な理由がありますが、例えば、以下のような理由が挙げられます。
a)自社実施が確保されれば十分である場合
特許出願すると、原則として、特許出願日から1年6か月経過後に出願内容がすべて公開されます(出願公開)。公開された後は出願した内容について新規性がなくなり、第三者がその内容について特許を取得することは不可能になります。
そのため、権利化する必要性は低いが自社の実施は確保したい場合、つまり、第三者に特許を取得されて自社事業の足かせになることを防ぎたい場合など、出願審査請求をしなくてもよい前提で特許出願することがあります。この場合、出願後に出願を放置している状態になるので、出願日から3年が経過するとみなし取下げされることになります。
b)市場や環境が想定外に変化した場合
特許出願したものの、市場や環境が出願当初の想定を外れて変化してしまい、出願した発明を事業で使わなくなる場合や使えなくなる場合が発生することがあります。
そして、出願した内容を権利化したとしても、自社で使うことはもちろん、他社が使いたくなることもなさそうだ、と判断した場合、出願審査請求をしないで出願を放置することがあります。また、予算の問題で出願を放置することもあります。このようにして出願が放置されて3年経過すると、出願がみなし取下げされます。
c)出願審査請求が必要であることを知らなかった場合
最悪なパターンですが、特許を取得するために出願審査請求しなければならないことを知らなかった場合が挙げられます。最近は特許に関する情報もネットにあふれているので少なくなっていると思いますが、初めて特許出願したというような中小企業さんに時々見受けられます。みなし取下げされると、本来であれば特許を取得できた発明であったにもかかわらず、誰もがその発明を利用可能になってしまいます。
特許に携わる際は、発明が生まれる背景事情の把握、発明の創出、発明の権利化、権利の利活用、そして権利の終焉までのフローにおいて、どのような手続がどのタイミングで必要であるかについて、よく理解しておくことが重要になります。
※今回の記事は今知的財産事務所のコラムからの転載です。
※画像はみんなのフォトギャラリーから mitsuki_haruta さんの画像を使用させていただきました。
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