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第1回 目の前の「人」を見つめた先にはじまったアート|就労継続支援B型事業所ぽんぽん所長 鰐川華衣さんインタビュー

オリンピック・パラリンピックに向けて、障害のある人の文化・芸術活動が盛り上がりを見せ、SDGsやESG投資への気運の高まりを背景に彼らの表現がお金という対価になりやすい社会になってきているように感じます。とても嬉しく、ありがたいことではあるけれど「障害者」というコンテンツを消費していないか?そんな不安に駆られることがあります。

障害者と呼ばれる人々がどうして表現活動を行うようになったのか、今こそ知って欲しい。

今回お話しを聞かせていただいたのは、約20年、広島で障害のある人の表現活動に携わっている就労継続支援B型事業所コミュニティーほっとスペースぽんぽん所長 鰐川華衣(わにかわ かえ)さんです。

認定NPO法人コミュニティーリーダーひゅーるぽん
幼児期の子ども達の育ちを専門的に支援する「ひよこ組」、18歳までの学齢児がいきいきと成長する場である「キッズ組」から成るこども発達支援センターと、18歳以上の障害のある人の社会参加を支援する就労継続支援B型事業所「コミュニティーほっとスペースぽんぽん」を運営。他にも、災害時はボランティアセンターとして機能したり、障害のある人の公募作品展「アートルネッサンス」を主催したり、地域に根差して幅広く活動しているNPO法人。
https://www.hullpong.jp

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わたしがスタッフだったことは一旦忘れてもらって(笑)、福祉に関心はあるけど福祉に直接は携わっていない、今日は、そんな方に向けてぽんぽんのことを教えて下さい。
*筆者は2020年3月までぽんぽんで働いていました。

鰐川
わたしに伝えられるかな~(笑)

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ぽんぽんって、別の法人からひゅーるぽんが運営を引き継いだんですよね?

鰐川
そうそう。もともとは「ひまわり」という共同作業所でしたが、運営が立ち行かなくなったときに、ひゅーるぽんの理事長が立て直しに携わっていたんです。最終的に、ひまわりの存続が難しい、もう解散するという話になって。それだったら、ひゅーるぽんが引き受けてくれないかっていう話をいただいて、そこからですね。

ただ、ひゅーるぽんも子どもたちの拠点ができたばかりの年だったので、大人も子どもも、両方やるのは難しいよねという声もありました。でも、当時ひまわりに通っていた人の行き場がなくなるという現実だったり、彼らが子どもの頃に理事長が一緒に遊んだことがあったり、ひゅーるぽんとボランティア活動を一緒にしていた学生がひまわりにも行っていたり…。

そういう場所をなくしちゃいけんよねっていうところから、引き継ごうって。そこが始まりですね。

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今では、ぽんぽんっていうと、アートや演劇で知られているイメージがすごくあるんですけど、ひまわりがもともとアートに取り組んでいたわけでは…

鰐川
ないですね。

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どういうことがきっかけでアートに取り組むようになったんですか?

鰐川
小川貴弘(おがわ たかひろ)さん(以下、小川くん)と山内紀彦(やまうち のりひこ)さん(以下、山内くん)が、内職作業の合間、裏紙みたいなものにずっと絵を描いて過ごしていたんです。

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小川貴弘さん

小川くんは今と同じスタイルで、色鉛筆で紙いっぱいに描くということを休憩時間のたびにやっていて。山内くんも「紙」って言って、鉛筆一本で「安 佐 動 物 公 園」って書いて、象さんとか描いてっていう…もう何十枚も重ねてあって。

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山内紀彦さんの初期作品(絵には色をつけなかった頃の作品、背景の色を一緒につけた上に描いてもらったもの)

二人の姿を見ていて、これを何かにつなげられないかなというか…。彼らは、誰に言われた訳でもなく、日常のひとつとしてそれをやっていたので。

「作業しなさい」と言われたら、やらないわけではないけれど(笑)休憩といったら、作業をぱっと終わって、休憩スペースに行って描いていたので、この表現を何か形にしたいなあって思ったのが、アートをやってみようかなっていうきっかけかな。

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小川くんと山内くんが自ら進んで描く様子を見て、アートをやってみようと思ったんですね。

鰐川
ひまわりからひゅーるぽんに運営を引き継いでから、来て作業するだけじゃなく"ちょっと楽しいこと"とか、"豊かなこと"を取り入れてやっていこうとしていた時期でもありました。みんなに「絵、描く?」って聞いたら、ほぼ全員が「描く」って言ってくれたので「じゃあ描こうか」っていうところから。

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ほぼ全員!

鰐川
当時いたスタッフが「なんちゃって陶芸をやってるんだ」って自慢していたんですよ。「粘土を運んで7年」とか言って。(笑)だったら、陶芸もやってみようかってところから、絵を描いたり、陶芸したり、1カ月に1回ぐらいでもやろうかねって、そんな気軽な雰囲気で始めましたね。

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楽しいこと、豊かなことっていう位置づけで始められたんですね。

鰐川
当時は、来て作業して、来て作業しての繰り返しで、会話もなく…。通所者同士も仲が良くなかったんです。「あの人嫌い」って言ってみたり「近くに来んな」とか怒ってみたり。そういう関係性だったんですよね。

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えぇ?!それは意外ですね!

鰐川
精神障害のある方も知的障害のある方もいらっしゃったんだけど…ある精神障害を持つ方は「言ってもわからん奴は叩いてでも教えにゃいけん」って言ってみたり、知的障害のある方同士も、近くに来たら物を投げてしまって「あっち行け」とか言ってみたり。

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今のぽんぽんの通所者の皆さんは絆を感じる場面も多く、想像できないですね。

鰐川
だいぶ違いましたね。なので、これはいけないと。来て仕事をする以前に、仲間としてどうか、人としてどうかっていうところがあったので、楽しいことしながら、仕事じゃないところで認められる場面や、すごいねって言い合える場面も作っていきたいな、という感じでしたね。

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絵や陶芸に取り組む中で、仕事だけでは築けない関係性を作っていったんですね。

鰐川
他にも、外食に行ってみたり、延々と散歩してみたり、公園に行ってボール遊びをしてみたり。仕事もするけど仕事以外の活動もいっぱい取り入れてやっていきながら「あ、この人こういうとこすごいね」って発見する場を作っていきました。色んなことをすれば、得意不得意はもちろんあって、できる、できないだってもちろんあるけど…逆に、今まで何もできないと思われてた人が「すごいね」って言われる場面も出てきて、そこからちょっと雰囲気が変わってきましたね。

色んなことをやってみたうちのアートがそのひとつ。みんなからやりたいって言ったのがアートだったので、1週間に1回でも2週間に1回でも、絵を描いたり、陶芸したりっていうのはずっと続けてきました。

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konkon
障害のある"人の魅力"を伝えるために①障害福祉サービスの商品販売、②作品展企画、③常富芳香さんマネジメント等広島を拠点に行っています。
ひとりでも多くの方に「こんこん」と気軽にノックしてもらえますように。
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