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航空機事故から学ぶ:燃料が詰まった⁉︎①

燃料が氷結して詰まった:2008年1月17日、中国の北京空港から英国のロンドンHeathrow空港へ西行していた英国航空38便(B777型機)は、乗員乗客152名を乗せ、ユーラシア大陸を横断する長距離飛行を順調に終えて、Rwy 27Lへアプローチしていた。
突風が22~30ktあり、auto-pilotが推力を調整していた。副操縦士が操縦桿を握っていたが、高度1,200ft付近から推力が上がらないことに気づいた。手動操縦に切り替えたが改善せず、全出力にしても同様で、同機は800fpmで落下していた。機長が操縦を交代し、Maydayを発信した。gear upするか迷ったが格納せず、滑走路手前のHounslow地区やA30号線に墜落しないよう、咄嗟の判断でflapを30°から25°へ戻して滑空距離を伸ばし、Rwy 27L手前の着陸帯に接地。その後滑走路端の右脇で停止した。エンジンを停止して、乗客らを脱出用シューターで退避させた。機体は右主脚が脱落し、左主脚は主翼の根元を突き破っていたため燃料漏れを起こしたが、火災は発生しなかった。全員が脱出して、死者は出なかった。
AAIBの調査官らはまず機長から聞き取りを行い、突然推力が上がらなくなったとの証言を得た。black boxとQuick Access Recorderが回収されたが、QARは事故の45秒前に記録が途絶していた。
事故機の数か所からジェット燃料が採取され、品質が鑑定された。この燃料は韓国で精油されて、上海経由で北京空港に納品されたもので、小片が見つかったものの両方のエンジンを停止させるものではなかった。2005年8月にMalaysia航空のB777型機がコンピュータの異状で同様な事故を起こしていたため、その検証もなされたが、問題は見当たらなかった。
FDRより燃料温度記録を見ると、北京で-2℃であったのが、シベリア東部上空では-34℃、欧州上空では-30℃、アプローチ時には-20℃と変動していた。AAIBの格納庫でB777の燃料システムを組み上げて何回も原因の見落としがないか検証を重ねたが、見つからなかった。
2008年11月にデルタ航空18便のB777型機が同様な異常を起こして、Atlanta空港へ何とか着陸した事例が発生した。AAIBは2008年4月に調査官を米国SeattleのBoeing社へ派遣し、FOHE (Fuel Oil Heat Exchange)に燃料が氷結して蓄積、剥離、閉塞を起こしていなかったかを検証するよう依頼した。ジェット燃料は-30℃で燃料パイプに付着するが僅かであり、-20℃~-8℃になると氷がパイプに付着することが確認された。この氷結範囲で燃料流量が上がると、付着していた氷がFOHEに流れ込み、そこで氷が一塊となって、燃料系統を閉塞させることが分かった。
DL18便では、throttleを一旦idleに下げてから上げ直したので燃料を送り込めたが、事故機ではHeathrow空港へアプローチ中に乱気流があり、auto-throttleが自動的に上下したため、この現象が発生したものとAAIBは結論した。
AAIBはエンジン想像元のRolls-RoyceにFOHEの設計改良を勧告し、RR社は直ちに変更した。

B737型機の垂直尾翼のhard over問題といい、B777型機のこの問題でも、未知の原因で航空機事故が発生した場合、幾 先行もしくは続発事例を複合的に幾つか勘案して、原因究明されることがあります。各国の航空機事故調査委員会と航空機メーカーが協力して、真の原因を見つけ出した点で、傑出した事故調査でした。
大型機をロンドン市内の密集地に墜落させなかったことで、乗務員は英雄扱いされたとのこと。快挙であった事は間違いないことです。もしかしたら、失速に気をつけながらflapを上げ切って、空港内までたどり着けることが明らかになった時点でflapを入れ直していったら、2億ドルする機体を壊さずに何とかRwy 27Lへ滑り込ませることは出来なかったでしょうか?突然発生した異常に一瞬で判断することは、老練な機長でも困難だった筈ですし、むしろ危険だったかも知れませんけれど。


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