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航空機事故から学ぶ:B747カーゴドアの爆発

United航空811便 貨物ドア脱落事故:1984年2月24日、United航空811便(Boeing 747-100型機)はLos Angeles – Honolulu – Auckland – Sydneyの飛行ルートで、乗客337名を乗せてHonolulu空港を午前2時少し前に離陸した。総飛行時間が3万時間を超えるベテラン機長、勤続25年副操縦士、それに優秀な航空機関士は、前方に雷雲を認識し、ポートサイド(進行方向左側)へダイバートすることをHonolulu管制にリクエストした。偏向が承認され、機長はシートベルト着用サインをONにした。
午前2時9分、突然機体内部で突然爆発音がして、機内は白煙に包まれた。乗員は急減圧が発生したと認識して、酸素マスクを着用したが、酸素が放出されず、1万フィートまで急降下を試みた。Honolulu管制にはMaydayを宣言。3番エンジンにinoperableが点灯したため、これをシャットダウンさせた。最大離陸重量近い重さのため、180°旋回するのが難しく、満載したジェット燃料を放出させながらHonoluluへ進路を戻した。4番エンジンにもoverheatの警報が点灯し、操縦席から火を噴いているのが目視できたため、これも消火した。航空機関士が客室を検分し、「機体右側を喪失した」と被害状況をHonolulu管制に通報した。管制官も動転して「右翼を損傷したのか?」と尋ねる始末であった。
Honolulu空港まで45NMの地点で6,500ftまで降下し、10NM手前でも滑走路が目視できず、管制塔からレーダーベクターを受けた。燃料放出を続けても、着陸には未だ45,000Lb重すぎで、左エンジンだけで070°へ右旋回するのは慎重を要した。
Rwy 8Lにアサインされ、着陸許可が出た時点で地上の風向風速は050°から12ktと好都合であった。機長はTrimを中央に戻し、やや早すぎる速度で機体を接地させた。直後に1番と2番エンジンを逆噴射させ、自身も「最高の着陸だった」と回想するくらいにスムーズに停止できた。乗員は2つのエンジンをシャットダウンさせ、客室乗務員は45秒以内に全乗客を機外へ脱出させた。但し、大きな穴が開いた部分に着席していた9名は、座席ごと機外へ吸い出されて死亡した。
この事故の2か月前、Pan Am103便がスーツケースに紛れ込ませた爆弾でスコットランドのLockerbie村に墜落したため、NTSBの調査官らはFBIの爆発物専門家と共に、脱落した前方貨物ドアとその上方に開いた直径5mほどの穴の周囲に爆発物の硝煙反応があるが検査した。ところが、いずれも陰性で、大きな穴の破断面に腐食や金属疲労が見られないか精査したが、こちらも認められず、この爆発は突発的なfresh damageであると考えられた。
B747型機の貨物室ドアは、内部スペースを広く確保するため外開きとなっていて、電動または手動でラッチ金具がピンを包み込むように施錠する仕組みとなっている。機体に残っていたステンレス製のピン表面を実体顕微鏡で観察したところ、heat-tin-tinマークが付いており、貨物ドアが爆発的に外れたことが示唆された。B747型機の貨物ドアで同様な事故が1987年に発生しており、この際は機外から手動でドアを開けようとしてラッチが破損し、ドアが1.5インチ外へ開いたことが事故原因と結論されていた。これを受けてFAAは耐空改善命令(AD)を発令し、アルミ製部品を鉄製のダブラーで補強するよう命じていた。
事故機の貨物ドアを操作した地上職員へ尋問したところ、離陸前にドアは電動で閉められており、無理やり閉めたのでなかったと返答された。
電気系統故障の可能性については、貨物ドアのリレー部品に異常はなく、この開閉システムは上空ではOFFとなるため、考えにくいと判断された。
NTSBはラッチとピンのミスリギング(嚙み合わせ不良)が事故原因と最終結論し、1988年12月に貨物ドアを電動で閉めずに手動で何回も開閉するとラッチが痛むことを周知した。これを受けて、1990年4月には手動で開閉する際、ハンドルを回し過ぎないようADが発出された。
その直後の1990年7月、米海軍が曳航式ソナーシステムで事故発生地点の海底を探査すれば、水深14,000ftに沈む貨物ドアを探し出せると通知してきた。NTSBの調査官らは2か月かけて海底を隈なく探し、遂に2つに分かれた貨物ドアを発見。Sea cliff号で海底から残骸を引き揚げた。ドアロック部分は歪んでいたが、開閉システムのワイヤーが損傷しており、電気がショートしていた可能性があった。この状態でドアを電動にて開閉しようとすると、不用意にロックが外れることが観察された。
この事実を受け、1991年6月NTSBは事故報告書の第2版を公表し、事故機はHonolulu空港で電動で貨物ドアを閉めたが、誤電流でロックの一部が外れてしまい、そのまま離陸したため、上空23,000ftで内外の気圧差でドアが吹き飛んだ、との新たな見解を示した。

前週はDC10のカーゴドア爆発事故を取り上げましたが、今回はB747型機です。大型旅客機の貨物コンテナは大型ですから、ドアも相当に大きくせねばなりません。内開きだとコンテナ1個分は搭載できなくなるため、メーカーもユーザーも外開き構造にしたいのです。雨戸のように戸袋から横へ引き出して内側から外向きにはめ込むドアでも、戸袋のスペースが問題となります。
小型機であっても与圧式の機体では、長年の使用で胴体部が歪んでくるものです。特に大型機の場合は、気圧差だけでなく、機体重量でも歪みます。それを無理にドアを開閉しようとすれば、ハーフロックになったり、ピンが折れたりすることは当然起こり得る危険でした。その点に対する認識がメーカー、規制当局(FAA)、航空会社とも、甘かったと云わざるを得ません。
電気ケーブルの短絡で開閉システムが誤動作する可能性について、実はニュージーランド人乗客遺族の執念で検証が行われました。当初FAAは事故機の貨物ドアが太平洋の海底14,000ftに沈んだため、回収して検証することは困難との意向でした。ところが米海軍の最新技術でドアを回収できたため、開閉スイッチを検分してみると、遺族の指摘通りの異常が再現されたのです。事故原因究明で憶測に基づく結論を出すべきではありませんが、そういう可能性があることを検討しようとしない、FAAの保守的な姿勢も改められるべきなのです。
電気回路がショートしたことで墜落事故に至ったといえば、TWA800便のB-747も電気ケーブルのアーキングで、胴体中央下部の燃料タンクに引火して大爆発を起こしたという事例があります。大型旅客機の電線は、その長さだけでなく、沢山の細いケーブルを束ねることによって、相互の圧迫と摩擦で短絡するおそれがあります。当然、経年機のケーブルでは被覆の劣化も加わって、危険度が増すことが考えられます。航空機の制御通信システムは、今後複雑化することは間違いありません。光ケーブルのような、より安全で信頼性の高い技術を旅客機へ導入する必要があるのです。


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