見出し画像

航空機事故から学ぶ:発電機故障と蓄電量の誤解

1983年10月11日、Air Illinois710便(Hawker Siddeley748型機)は米Illinois州Meigs空港からSpring Field空港を経由して、Cabondale空港へLeister Smith機長、Frank Tudor副操縦士ら乗員3名と乗客7名を乗せて、Spring Field空港を離陸した。

離陸1分半後に右エンジンに付属する発電機に不調が見つかり、Smith機長はATCに軽微な電気系統の問題と報告して、引き返さずに高度3,000Ftで飛行を続けた。その4分後に左側の発電機もダウンして、Tudor副操縦士は「左は0A、右は27Aだが通電しない!」と機長へ報告した。右発電機の通電を切断し、Cabondale空港まで4つあるNd電池の電力のみで飛行することとした。
その時点でバッテリーは21.5Vを差しており、雷雨の悪天候であったが、32分間の飛行中に電力を持たせるために、ビーコン、NAVライトなど不要な電気を切った。ATCよりKansas管制センター125.3MHzへ周波数変更を指示されたが、対応する前に電力が無くなり、transponderからの信号が止まったため、管制radarから機影が消えた。
機長は独断で2,400Ftまで降下させ、副操縦士にFlashlightで姿勢儀を照らさせて、高度計を見ていてくれと指示した。そのうち姿勢儀が左へ旋回しているのを示したため、機長は右旋回で修正しようとしていたところ、目的地の25NM北にあるPincknuville郊外に滑るように墜落。10名全員が死亡した。

NTSBはRon Schleede調査官とRobert Watson調査官らを現場へ派遣し、事故現場を検分した。事故機の残骸は幅200Ft、長さ1/2マイルにわたって散乱しており、右へ30°旋回しながら、高速かつ浅い角度で地面と衝突していることを確認した。また墜落方向は目的空港とは逆になっていた。電気系統に短絡個所なく、左発電機はbanding wireが緩んで絡まっていた。右発電機に異常はなかった。4つのNd電池はいずれも破損していなかったが、全て空になっていた。

事故機にはFDRが搭載されていなかったので、CVRを解析すると、離陸直後に左発電機が不調と副操縦士は発言していたが、I assume...と右発電機が故障したものと思い込んで、右側をスイッチオフにしていた。整備記録を確認すると、事故前まで右発電機がいつも故障しており、副操縦士がexpectation biasを受けた可能性が考えられた。右発電機の制御スイッチは破損がひどく、検証できなかった。

Nd電池は目的地までもつ筈という見込みなら、消費電力を200Aから70Aまで節約する必要があるが、実際には110Aまでしか下がっていなかった。副操縦士は20:30に22.5V、20:31に21.5V、20:40に20.0Vと電圧が徐々に下がっていることを確認していたが、20:52に突然13Vまで急落したのに気づいた。
使用電力をAmp計でモニターしておらず、Ndで電池は電圧が突然下がることを知らなかったため、残りの蓄電量を正しく把握していなかった。同社では、そのような電気系統故障時の訓練を行っていなかった。

事故機は電力を喪失した時点で、目的地までに5つの空港へdivertできる状況にあったが、何故目的地への飛行継続に拘ったのかを検証した。
まずSmith機長はCabondaleに自宅があって、そのまま帰宅したかったことが想像された。同僚への聞き取り調査でJeanene Urban副操縦士は、「彼は遅延を取り戻すために積乱雲の中を飛行したり、速度超過警報音をOFFにするよう指示されたりしたりと、運航能力はAverage(並)の機長だった」と証言した。Tudor副操縦士については、「Best pilotであったと評したが、Risk-takingする機長にdivertを助言できる立場でなかったのだろう」と述べた。

墜落に至った直接原因として、Nd電池が空となって姿勢儀のジャイロもOFFとなったが、15,000rpmで回転するので、数分間は作動しているように見えることがある。機長はgyroが止まろうとしているのを機体が左へ旋回しているものと誤解し、右旋回で補正しようとしたため、目的飛行場とは逆方向へ墜落したと結論された。
NTSBは、CRM訓練を強化するほか、30分間以上給電する個別の電源を付属させた姿勢儀を装備するよう勧告して、これは1997年に法制度化された。Air Illinois社は事故の6か月後に倒産した。

いつも右側の発電機が故障するから、今度もそうだろうとTudor副操縦士が思い込んだのも無理はないが、実際の表示が以前と異なっていることにもっと思慮深く対処すれば、何ということもなくCabondale空港まで飛行できた事だろう。Smith機長も無事に帰宅できたのに…。

電力を失うということは、燃料が切れるのと同じくらい深刻な問題であることを心に留めるべきでした。電気が切れればADIも止まることくらい容易に想像できた筈なのに、二人とも気づかなかったのは、もはや常軌を逸した判断しか出来なかったのでしょう。非常事態でも二人で力を合わせて、冷静かつ合理的に対処すべきことが本事故の教訓です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?