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航空機事故から学ぶ:着陸後の燃料引火?

着陸後に不意の出火:中華航空120便火災事故
2007年8月20日、台北桃園空港から那覇空港へ向かていた中華航空CAL120便(B737-800型機)は、90分の飛行を順調に終えて、午前10:27に多少ドスンと落ちる感じで、那覇空港RWY18へ着陸した。5分後にスポットインした管制官が第2エンジンから出火したのを目視して、乗員へ知らせた。機長は直ちに退避チェックリストを開始し、客室乗務員が脱出用シューターを機体前後にある右側ドアからも展開させ、乗客157人を火炎の脇を乗客が機外へ脱出していた。機長と副操縦士は客室に火が回ったため、操縦室の窓からロープで脱出しようと試みたが、爆風で窓から転げ落ちる格好で何とか脱出できた。火災は1時間半後には鎮火したが、エンジンと胴体部分はほぼ消失した。
国交省鉄道航空機事故調査委員会(ARAIC)のほか、台湾と米国から航空機事故調査官が参加した。当初Engine Ignition, Fuel, Tireが火元として中心的に調べられ、タイヤから出火した火が高温の油圧システムに広がったか、電気系統からの出火が考えられた。Blackboxが回収され、作動状況を解析すると、これらの仮説はいずれも否定的であった。
事故当時に事故機近くにいた整備員が、左翼前面のleading edgeから燃料が漏れていたことを証言。Fuel lineのどこからか燃料が漏れ出し、それが高温のエンジンに掛かって引火したと考えられた。B737-800型機の燃料ポンプは200Gal/hrでエンジンへJet A-1燃料を送り込むが、このポンプも含めて系統に異常はなかった。
燃料タンクをボアスコープで内部から調べてみると、ボルトが側面を突き破っており、そこから燃料が漏れ出たことが分かった。調査官らは事故機の設計図から、その形状でDown Step Assemblyという部品と特定した。これは翼前面のSlatを出し入れする装置で、同型機では燃料タンクに食い込むような形で設置されているため、それまでボルトの突き破り事故が2件報告されていた。
Boeing社ではWork Orderを発出し、ナットとボルトをしっかり固定してボルトが燃料タンクを突き抜けないよう周知していた。事故機のAssemblyではナットの隣りにある筈のワッシャーが入っておらず、残骸の前縁部に落ちているのが見つかった。
合同調査委員会ではCALの整備状況を視察するため、台北で同じ作業を整備士に再現させたところ、整備士は目視できないため、手探りでナットを締めていた。そのため恐らくナット取付け時にワッシャーが外れたのに気付かなかった可能性が判明した。実際Down Step Assemblyをワッシャーなしで組み立てて装着すると、直ぐに部品が脱落することが分かった。Slatの出し入れが繰り返されると、脱落した部品が燃料タンクを押し破ることが充分考えられた。事故機のDown Step Assembly交換は事故の6週間前に行われており、その間に部品が脱落して、ついに那覇空港へRamp-inする際に脱落部品がSlatに押し込まれて燃料タンクを突き破り、Rampで止まって流出する燃料にエンジンの高熱で発火したと結論された。

たった1個の小さなワッシャーが抜けていたせいで、7,000万ドルするB737型機が全焼してしまった事故でしたが、細部までよく調査されて得られた結論でありました。不幸中の幸いだったのは、この事象が離陸後のSlat引き込み時に発生しなかったことです。低空でエンジンや翼が爆発したら、全員の命が失われていたでしょう。
左翼のSlatが燃料タンクを突き破り、そこから漏れた燃料が右エンジンに引火して火災を起こしたようです。それでも客室乗務員は右側の脱出シューターを2回所展開させて、乗客を機外へ退避させていました。当月羽田空港で発生した日航機と海保機の衝突事故でも、どの脱出シューターを展開させるかは、非常に重要なポントでした。幾つか解せない状況でありますが、何よりも全員亡くなることなく退避できたことが良かったです。

消防隊との連携で着陸後の出火を免れる:Qantas航空32便エンジン爆発事故
2010年11月4日、英国ロンドン・ヒースロー空港から豪州シドニー空港へ向かっていたカンタス航空32便(Airbus A380型機)は、Singaporeチャンギ空港で給油の後、22時間にわたる長時間飛行の最終レグへ午前9:57に滑走路5Cから離陸した。機長、副操縦士、セカンドオフィサー、それに査察機長が操縦室入りし、操縦する機長の運航チェックを行うこととなっていた。

順調に離陸後、午前10:01に突然バーンという音が鳴り響き、#2エンジンにオーバーヒートおよび火災の表示が点灯した。運航機長は同機を7,400ftで水平飛行とし、Singapore管制にengine failureをPan Panコールした。副操縦士が#2エンジンの消火レバーを作動させ表示は消灯したが、ECAM actionは色んな警告を雪崩のように次から次へと表示されていった。カンタス航空の運航センターにいた整備長は当初ECAM actionの誤作動かと思ったが、Singapore南東部のIndonesia領の島々に同便の部品が落下したことが報道されて、深刻な事態であると悟った。

同便は出発地から70km南東のIndonesia領上空で引き返すことを決断し、左旋回して方位020°でChangi空港を目指した。機長はセカンドオフィサーに翼の状況を客室から目視するよう指示し、左翼が破損して上面から燃料が噴出しているとの報告を受けた。また副操縦士には燃料投棄を命じたが、燃料ポンプが爆発で作動せず、投棄は出来ないと分かった。そこで査察機長に、この状態でChangi空港の4,000m滑走路へ着陸出来るか専用パソコンで計算して貰うと、145ktで接地すれば滑走路端の130m手前で停止出来ると分かった。機長は空港の20NM手前で最長滑走路へのlong approachと消防車の手配を要請した。4,500ftまで降下して左へrollさせて滑走路へalignさせ、Flap-3まで展開した。油圧の故障で脚出しが出来ないため、2分かけて重力でgear downさせた。166ktまで減速したところ失速警報が出たため、170ktまで増速させて警報を解除し、着陸時の風向風速が170°から5ktと穏やかなことを確認して、接地直前にthrottleを引いた。接地後はフットブレーキを目一杯踏んで、滑走路端150m手前で停止させることが出来た。降着装置のブレーキディスクは真っ赤に過熱しており、左翼から燃料が滴り落ちているため、着火する危険があった。

滑走路脇に待機していた消防車が直ちに消火剤を放出する一方、消防隊から#1エンジンが作動中との報告が操縦室へ入った。運航機長は機外が有毒(toxic)であると考えて、乗客を脱出させず機内に待機させる決断をした。後日この状況を機長は”Simulator exercise from hell”だったと回想している。結局、消防隊が消火剤を#1エンジンへ噴射して停止を試み、着陸4時間後に乗客をタラップで機外へ下ろすことが出来た。カンタス航空のCEOは、直後に同社のA380型機を事故原因が解明されるまで運航停止とする発表を行った。

ATSBの調査官は事故機のengine turbine diskを回収し、製造元のロールスロイス社へ送付した。同社の検査室で調べたところ、160kgあるdiskは本来より僅かに大きくなって伸びており、超音速で回転していたことが考えられた。そして遂には爆発して、その破片が左翼の燃料、油圧、飛行系統を破壊したと分かった。エンジン内部には滑油が漏れており、滑油を供給するstub pipeが破断してエンジンオイルが1,000℃に過熱したdiskにかかって発火したものと分かった。破断したpipeの断面を観察すると肉厚が均一でなく、不良品であることが判明した。ATSBは事故から29日後にロールスロイス社製エンジンを搭載した同型機を保有する航空会社に対して、stub pipeの緊急点検を推奨した。世界中に該当機材が20機あり、これらのエンジン80基のうち34基に同様な不良pipeが見つかった。

一本のパイプが不良品であったばかりに、墜落か火災の一歩手前までいった重大事故。後に沢山の不良品が別の機体からも見つかって、同様な事故は何時、どの機体に起こっても不思議でなかったことが判明しました。
事故機に幸運であったのは、短時間で緊急着陸出来る地点で発生したことと、チャンギ空港消防隊との優れた連携で、着陸後漏れ出した燃料に引火させなかったことです。



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