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何の石あり?

エアマンに「石があるんです」と相談されて、「どこに石があるのですか?」と訊ねると、正確に答えられない方が多いものです。体内に「石」があると云うと、唾石もあれば、膵石もあるのです。
一般に思い浮かぶ石とは、胆道系と尿路系の結石でしょう。胆道系とは、肝臓で合成された胆汁が、胆嚢に収められ、脂肪食を消化する際に胆管を通じて十二指腸へ流れ込む一連の経路です。そこに石が出来て溜まると胆嚢結石、胆管結石、或いは総じて胆道結石と診断されます。尿路とは、腎臓から尿管、膀胱、尿道、陰部までの排尿ルートです。ですから尿路結石は腎臓の出口である腎盂で結晶化した石か、細かく砕けたり、溶けたりして、途中の臓器に引っかったものです。停留部位により腎結石、尿管結石、膀胱結石などと称されます。

色々な結石がありますが、時に発熱や痛み症状の原因となることがあり、そうなれば結石症と診断される病気です。飛行中にこのような症状が強く現れればインキャパ状態となりますので、航空身体検査では不適合と診断されるでしょう。

胆道結石は前世紀までは治療が大変でした。イチジク大の胆嚢を結石ごと摘出する為に逆L型の大きな腹部切開が必要で、切開創の治癒と胆汁流出正常化に数か月乗務を離れるのが一般的でした。今日では腹腔鏡を用いた胆嚢切除術、内視鏡を使った膵・胆道結石除去術が一般病院で日常的に行われるようになって、乗務復帰まで1か月程度に短縮化されました。但し、胆嚢が腺筋化していたり、膵に嚢(のう)胞がある時には、癌化していないか鑑別する必要があり、ごく稀に癌が見つかって乗務を降りることになったエアマンもおります。

尿路結石も、かつては大がかりな腰背部切開を加えて外科的に切除する術式もあったようですが、その後衝撃波破砕装置が実用化されました。小さな浴槽みたいなプールに体を沈め、複数の衝撃波発生装置の焦点が結石に一致するような体勢で、破砕を繰り返すのです。呼吸による結石の移動もありますから、衝撃波を数千発加えても、結石が完全に砕けないこともありました。それを克服するため、カテーテル内視鏡を使ったレーザー破砕術が実用化されました。アルゴンレーザー等を使って、結石が破砕されるのを確認しながらレーザー照射するので、安全でかつ効率的です。

どんな結石でも、除去したからと云って二度と再発しない訳ではありません。むしろ直ぐに新たな石が形成されることも少なくありません。ですから体質改善や生活習慣を改めることも重要です。胆汁のうっ滞を改善するウルソデオキシコール酸(ウルソⓇ)を服用したり、マグネシウム製剤(マグミットⓇ)を、尿管結石にはウラジロガシエキス(ウロカルンⓇ)やクエン酸製剤(ウラリットⓇ)を服用して、陽イオンやpHを調節することで結石化を防止する方法があります。

もしも石を体外へ取り出せたら、その主成分を知ることは有用です。ビリルビン、コレステロール系、蓚(しゅう)酸などが代表的な成分ですから、高脂血症の既往があるエアマンは、スタチン系薬剤を内服して悪玉コレステロール値を下げるのが合理的です。

蓚酸が主成分の結石症では、食事内容がかなり影響します。蓚酸を多く含む、ほうれん草や緑茶を摂取しすぎると、当然石の原料が増えてしまいます。そうなるとポパイはセーラーマンになれても、エアマンには不向きな訳です。

体内に石が出来る病態を改善する上で共通して言えることは、水分を常に多く取ることです。体液の流れが多ければ石は出来にくいですし、結石化しても小さいうちに流し出せるものです。またアルコールやカフェイン飲料を摂り過ぎないことも重要。カフェインには利尿作用があり、筋肉に水分が貯留する前に尿となって排泄されてしまうからです。フライト中にコーヒーを飲んでいけないとは思いませんが、トイレに行くことを厭わないで、アメリカン・コーヒーをガブガブ飲むつもりならいいでしょう。

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