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読書備忘録

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小さな書評集と称して、推薦図書を紹介しております。当記事が素敵な本と出会うきっかけになりましたら幸いです。
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2017年6月の記事一覧

【読書備忘録】不浄の血からヒドゥン・オーサーズまで

不浄の血 *河出書房新社(2013) *アイザック・バシェヴィス・シンガー 著 *西成彦 訳  十六編を収録した短編集。イディッシュ語・ユダヤ教に基づいた伝承的な物語が紡がれており、そこには人間の独白もあれば悪魔の独白もあり、荒廃した家に残された年老いた靴屋、悪魔と結婚させられた娘、欲望と狂気に駆られ屠殺人となる主婦、空虚な生活を営む老人、各時代を生きる人々の鮮烈な声が記されている。近現代を題材にとったグロテスクな宗教画が連続的に展覧されるような感覚。どの物語にも悪魔の影がち

【読書備忘録】別荘から場所まで

別荘 *現代企画室(2014) *ホセ・ドノソ 著 *寺尾隆吉 訳  異常な繁殖力を見せる植物グラミネアの群生地、食人種と言われる原住民の集落、そこを植民地として支配するベントゥーラ一族。別荘に三十三人のいとこたちを残し、大人たちがピクニックに出かけたときから物語は歪み始める。秩序が失われた別荘で繰り広げられるいとこたちの乱痴気騒ぎ、執事を筆頭とする使用人たちの反乱、故郷を奪われた原住民の逆襲。頻繁に「作者」が「この小説がフィクションであること」を強調する語り口に加えて、大人

【読書備忘録】ムッシュー・パンから黄色い雨まで

ムッシュー・パン *白水社(2017) *ロベルト・ボラーニョ 著 *松本健二 訳  詩人セサル・バジェホの治療にあたるメスメリズム信奉者ピエール・パン。風変わりな人物、奇妙な映画、賄賂、失踪。バジェホを巡る陰謀の影は追跡するほど遠ざかる。真実と捏造が調和し、空虚感とサスペンスが見事に両立している。 http://www.hakusuisha.co.jp/book/b269905.html 赤い高粱 続 赤い高粱 *岩波現代文庫(2003) *莫言 著 *井口晃 訳  恐る

【読書備忘録】アレフから石蹴り遊びまで

アレフ *岩波文庫(2017) *ホルヘ・ルイス・ボルヘス 著 *鼓直 訳  ボルヘス作品は虚構と現実の境界線が不透明というか、物語が生まれるまでの思考内容が物語に換えられるような印象がある。本作でも空想や思索の痕跡がうかがえてどこまで小説・随筆として読めるかわからなくなる。その不思議さが面白い。 https://www.iwanami.co.jp/book/b280254.html 天使の恥部 *白水Uブックス(2017) *マヌエル・プイグ 著 *安藤哲行 訳  過去と

【読書備忘録】クィア短編小説集からプラハの墓地まで

クィア短編小説集 *平凡社ライブラリー(2016) *アーサー・コナン・ドイル ハーマン・メルヴィル(他) 著  表題に対抗的・革新的な意味合いがあり、メルヴィルやドイル等19~20世紀初頭を飾る作家たちの短編を通してクィアに言及する体裁をとっている。小説自体は勿論、作品群に如何なるクィアが含まれているのか、そうした主題探しにも面白味がある。 http://www.heibonsha.co.jp/book/b239698.html 日本漁業の真実 *ちくま新書(電子書籍版