【掌編小説】鳴き声のする風景
煎餅布団に横たわる友人はミイラのように痩せ衰え、根ぶかい苦悶の痕跡を土気色の顔に残していた。ここまで彼を苦しめたものはベランダからのぞめる大正川にあった。おだやかな支流にかかる歩道橋で子猫が鳴いているとメールをよこしてきたのは、アスファルトの熱が煙のように立ちのぼる真夏の日だった。歩道橋から聞こえるか細い声に気付いた彼は、捨て猫が助けをもとめているのではないかと懸念した。しかし、臆病風に吹かれて近所で猫が生まれたのだと決め付けて聞かぬふりに徹したのである。
五匹の子猫の死