小麦のちょっと思い出しただけ#1-1(同期ちゃん)

小麦くんちょっとこっち来てくれる。と手招きする彼女。

これはまだ職場で飲み会が開催出来ていた頃の話。彼女とは同期で新採用の時の飲み会で少し話したことがある程度の仲である。そんなことを想いながら彼女についていくと個室に行き着いた。なぜ個室に招いたのか理解が追いつかずにいると、彼女は眼を瞑って顔を近づけてきた。あ、キスされる、と思ったが避ける理由も無かったのでそのまま受け入れる。理解ができなかったが、されたからにはと彼女の唇を求めるようにキスを返した。彼女はくすりと笑い、小麦くんってなんだか慣れてる感じがするね。経験人数何人?と勝手に抱いていた彼女のイメージとは異なる発言に少し面を食らったが、隠す必要も無いので素直にを応える。彼女はまたくすりと笑う。だからこういうキスができるんだね。と彼女はまた笑う。

何やってるの?第三者の声が後ろから聞こえ思わず身体が反応する。同じく同期の竹山くんだった。ニヤリと口角をあげているが目が笑っていないため、こういう顔だったのか、過程を見ての発言かが判断がつかず脂汗がでる。なんでもないよ。と応えを濁す。そんな俺を見て彼女はくすりと笑い俺を置いて去っていった。

飲み会は退屈で、過去の自慢と自分がいかに素晴らしい人間かを回りくどくアピールする奴、それを讃える奴らにうんざりしていた。
こんなときに話し相手が欲しいなと彼女を心のどこかで求めていた。が、結局その後、彼女と会話をすることは無かった。

飲み会が終わり、帰り支度をして外に出ると彼女が居た。小麦くん一緒に帰ろと言われる。返事をする前に左手に温もりを感じた。恋人繋ぎか。と頭の中で呟いた。周りの同期が小麦さん同期ちゃんと、え、どゆこと?と小声でささやく声が聞こえる。
居心地の悪さを誤魔化すために酔ってる?と優しなさなんて何一つない自分本位な言葉を彼女に投げつけた。
酔ってるよ。理由になるかな。と切れ長の目で覗き込んでくる。どうでもいいよ。と空返事のフリをする。これは何かが吹っ切れて出た紛れもない本音だった。

帰り道。バス停から電車に乗り換え彼女の最寄り駅につくまで他愛もない話をした。彼女はその間ずっと手を握っていた。真夏だというのにサラサラした掌やそれまで意識すらしていなかった彼女の突然の大胆な行動や手の甲に長く磨れた爪が当たる感覚に興奮をしていた。

ここから先、恋とは言えない複雑な感情を抱え彼女との関係が始まった。

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