漁港の猫とまぼろしの猫に会える町
「晴れた日の三崎は、世界一の町。」
わたしの好きな作家・いしいしんじさんの言葉です。
だから今年の誕生日は世界一の町に行こうと決めました。
三崎は日本初の遠洋漁業の港。
そこで船員さんたちを泊めておくための元・簡易宿屋だった場所にいしいしんじさんが住むようになり、お引越しされたあとはリノベーションされてゲストハウスになりました。それが『bed & breakfast ichi』。
好きな作家の旧宅に泊まれるなんて。三崎での暮らしが書かれた『みさきっちょ』を読み、わくわくしながら当日を待ちました。
いちばん最初に読んだ『ポーの話』も、いちばん好きな『プラネタリウムのふたご』も、三崎で生まれた物語なんだそう。
それならば、やっぱりわたしは三崎に行きたい。
大好きな物語が生まれた海を見に行きたい。
京急バスに乗って下町を目指します。
三崎港を通り過ぎて、降りたのはそこから2駅先の日ノ出。
来た。とうとう三崎にやって来た。
いしいしんじさんの本を読むと、呑みこまれたなあ、と思います。文章の波間にプカリプカリと漂っているような感じ。この文章の波に呑まれる感覚がうれしくて、ゾクゾクする。心がいっぱいになる。
『みさきっちょ』はいしいしんじさんの三崎愛、なんて簡易な言葉で表したくはないけれど、三崎のひとたちへの想いがぎゅうぎゅうに詰め込まれていて泣きたくなっちゃうほどのエッセイ。町に対して「こんなにも想われて、幸せだろうなあ」なんて初めて感じました。
エッセイで読んでいた場所を実際に訪れてみて、ほわあ、と幸せなため息が出てしまいます。ここが、いしいしんじさんの言う、世界一の港。
『みさきっちょ』の出版社でもあるアタシ社のカフェ、本屋、そして2階はなんと花暮美容室。
いしいしんじ祭2023の手書きお散歩マップはまだあるかしら、と探しに行きました。無事に発見。「戴いても良いですか?」と確認すると「どうぞどうぞ。いしいファンなんですね」とニヤリ。「そうなんです、今夜はichiに泊まるんです」「おお、それは素晴らしい」
移住して1年のお兄さん。ちょっとしたおしゃべりに癒されました。
本と屯を出て、来た道を少し戻り、坂道を下っていきます。
パワーが湧く赤色の看板が見えてきました。
ずっと来たかったお魚屋さん。まるいち魚店。
三崎に引越しをされる前のこの一文が印象的でした。
『いしいしんじのごはん日記』でもまるいちのお魚等、美味しいものを食べたときに度々出てくる「まぼろしの猫たち、踊りだす」という表現がもうものすごく好きで。ああ、わたしも三崎のお魚が食べたいなあとうっとりしながら読んだものです。まぼろしの猫たちと踊りだしたい。
幸福感いっぱいの下町散策をしてbed & breakfast ichiへ到着。チェックインの際に宿の説明だけじゃなく、店主紹介もあったのがほっこりポイント。
読んでいた通り、左右に階段がある面白い作りでした。
さあ、待ちに待った三崎の夜ごはんです。
枝豆ごはん、ゴマサバの南蛮漬け、オクラのおひたし、インゲンのおかき揚げ、ヒイラギ。
楽しみにしていたお魚だけではなく三浦のお野菜も、まあ美味しいこと!インゲンのおかき揚げはぼんち揚げの味がする…?と思いきや、柿の種で作られたんだそう。食べたら無くなってしまうのが悲しくなるくらい美味しかった。
いままで食べてきたお造りとは全く異なるラインナップ。
真アジ、アオアジ、タチウオ、アカカマス、ヒラソウダ(ガツオ)、ハナダイ、ゴマサバ。
全て味がついているとのことでお醤油無しでいただきます。お魚本来の甘さに口の中がきゅーっとなった。お造りだけど、どれもちゃんと味が違うし、食感だって違う。それぞれの違いが分かる。これは確かにまぼろしの猫たちだって踊りだす。
お肉が一切無い、お魚たっぷりのメニューに大満足。
人生でいちばんお魚を食べた日になったと思います。
小雨が降る中すこし歩いて銭湯へ。檜風呂に包まれる。
東京の夜と違って夜風が涼しくて歩きやすい。
朝ごはんまで時間があったので猫を追いかけながらお散歩へ。
ichiに戻って朝ごはんです。
和食か洋食か選べるのですが、悩みに悩んで洋食にしました。前日に和食はいっぱい食べるだろうと思って。でも本当は和食の朝ごはんも食べたかった…!
…と言いつつ、洋食の朝ごはんだって、どれもこれもとっても美味しかったです。食べる前から目が喜ぶ光景でした。ああ、また食べたい。
充麦のパン2種、グリーンサラダ、ラタトゥイユ、ヒラスズキのブランダード風マリネ、スクランブルエッグ、ウィンナー、オニオンスープ、三浦のスイカ。
早いもので、チェックアウトの時間です。
いつ言おう、いつ言おう、とタイミングを伺っていたのですが、結局最後の最後になってようやく持参していた『みさきっちょ』を取り出しました。
以前宿泊されたお客さまがichiのおふたりにサインをお願いしたというのを読んでいて、わたしもお願いしよう!と思っていたのです。
「二度とないかも、って書かれていたとは思うんですが…」と本を差し出せば、恥ずかしそうに、でも、快くサインを書いてくださいました。
自宅に着いてからも三崎で過ごした時間を思い出しては口角が上がってしまう日々です。たった1泊過ごしただけですが、心身ともに凪いだ海のような心地がします。ただただ、しあわせでした。
「晴れた日の三崎は、世界一の町。」
いしいしんじさん、素敵な機会をありがとうございました。
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