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上島竜兵さんの死に想う−−ダチョウ倶楽部の生き様に教わったこと

上島竜兵さんが死んだ。

いまでもまだ信じられない。悪い夢でも見ているようだ。
死因は自殺と聞いている。そんな馬鹿なことがあるものか。

だって、上島さんはいつも何かに挑んでいる人だったから。いつも何かに食ってかかり、食ってかかることで存在感を発揮する人だったから。

         * *

上島さんは、僕が編集者の道に進むための力をくれた人の一人だ。

大学生の頃、将来は活字の世界で生きていきたいと願っていた僕は、某雑誌で「今年消えそうなタレントランキング」の上位に、毎年、名を連ねながらも、決して消えることのないダチョウ倶楽部の存在に興味を持ち、「消えないダチョウ倶楽部の謎」という文章を書いたことがあった。

上島竜兵、肥後克広、寺門ジモンの3人の芸風から、ダチョウ倶楽部の芸人力を考察したものだったが、そのうち、上島さんについての文章を読んだある編集者の方が、「これは上島竜兵という芸人に対する見方を変える、静かだけれど、力を持った文章だ」と評してくださったことがあった。

さらにその後、「消えないダチョウ倶楽部の謎」は、某雑誌の編集者の目に留まり、当人たちへのインタビューを含めた特集記事を組んでいただけることとなった。

この二つの出来事があったからこそ、僕はなんとかこの道でやっていけるかもしれない、という自信を持ち、その思いを固めることができた。そして、それから20数年が経っても、移り変わりの激しい芸能界の第一線で走り続けている三人の姿は、ひそかな憧れと尊敬の対象でもあった。

21年前、2001年に書いた文章。自分でいま読み返してみても、不思議と古い感じはしない。上島さんが何十年にもわたって一つの芸風を貫き、上島竜兵という芸人を最後まで演じ切ってみせたことの証左であると思う。


年末年始のバラエティー番組が終わり、思ったことがある。

2001年のこの正月、一番テレビに出ていたのは、ダチョウ倶楽部ではなかっただろうか。

今田耕司、笑福亭鶴瓶、志村けん、ウッチャンナンチャン、ナインティナイン、ココリコなど、若手や大物タレントに混じって、ここにもかと言うほど彼らは顔を出していた。

そして今年の場合、メンバー全員ではなく、上島竜兵ひとりが出演していたパターンが多かった。役どころとしては、中途半端なゲスト役として呼ばれたり、いつものように泣きながら何かを叫んでいるというだけなのだが、ここまでパターン化された芸で、数々のバラエティー番組に登場している芸人も珍しい。

何年か前の正月に、『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』という番組の中で、初めて彼の姿を見たような気がするが、その時はヤラれ役の一人としか見ていなかった。扱い的には、たけし軍団の面々と何ら変わりがない。

そういった役どころの芸人は、芸能界に腐るほどいるし、上島もあの手のタイプのように、悲惨なコーナーで、争ってひどい目に合いにいくタレントだと思っていた。

それが、毎週日曜の昼間に『スーパーJOCKEY』という番組で、並み居るたけし軍団のメンバーを抑えて、彼が実験台の役をしていた時、この男はいったい何者だろうと思った。その大げさなリアクションと暑苦しいルックスは、客の不快感を買いながらも、出演者の中でひと際目立っている。

そして当時、誰もが「殿」と呼んでいたビートたけしに、ひとり果敢に挑んでいくのは彼だった。

上島のあの役回りというのは、おそらくたけし軍団の多くが、狙いながら立てなかったポジションであろう。事実、彼より面白いコメントをする芸人はたくさんいるし、見てくれも他に好感を持たれそうな人は大勢いる。

しかしライトを浴びていたのはいつも上島で、あのたけしも「お前ら、ほんとにくだらないよ」と口では言いながら、嬉しそうにしていたのを覚えている。

上島が、似たような役回りのたけし軍団と決定的に違っていたのは、「やめて下さいよー!」というしかなかったヤラれ役のリアクションに、「訴えてやる!」や、「殺す気かーっ!」という、“自己主張”の要素を取り入れたことだろう。顔をグシャグシャにして絶叫する彼の姿に、視聴者は暑苦しいまでの人間味を感じてしまうのだ。

その時、番組の中のコマでしかなかったヤラれ役が、ひとりの人間として意味合いを持つようになる。

ビートたけしの“芸人”としての失速に伴い、『スーパーJOCKEY』の人気も徐々に衰えていったが、その時、すでに抜群の存在感を示していた上島のキャラを、テレビ局は放っておかなかった。

その後彼らは『笑っていいとも!』や『ウンナンの気分は上々。』などの人気バラエティーに次々と出演していくのである。

         * *

上島のことで忘れられない場面が一つある。5年前、『第20回ものまね王座決定戦』に出演をした時のことだ。

毎回、「下品だ」「不まじめだ」と審査員からあしらわれ、早々に姿を消していた彼らがどういう訳か、ベスト8、ベスト4と駒を進めていった。

いつまで経っても負けないダチョウ倶楽部に、本人たちが一番信じられないという表情をしていたが、決勝でものまね四天王の一人である栗田寛一と当たった彼らは、なんと優勝をしてしまうのだ。 

賞金とトロフィーが手渡され、司会者も観客も大騒ぎしていた中、ひとり泣きじゃくっている上島の姿が映し出された。

グシャグシャの顔をしたまま、ただ泣くことしかできなかった上島竜兵。それは芸も何も忘れた、ひとりの人間の姿だった。


上島さん。長い間、本当にありがとうございました。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。