手放したはずの執着が

 わたしが七年間応援していて、大好きだった舞台のシリーズが昨日ついに終わりました。
 漫画が原作のいわゆる2.5次元といわれる舞台で、原作をきっかけに舞台を見て、舞台作品だけでなく俳優の方も好きになって応援しつづけた、いまのわたしの観劇趣味の根幹ともいえる感慨深い作品です。
 残念ながらシリーズの途中でわたしの応援していた俳優の方は役を降りられてしまいましたが、もともと原作が好きで、役を続投された他のキャストの方も多かったので、新作が発表されれば観に行きました。
 もうわたしの大好きな俳優のあのひとが、わたしの大好きな舞台シリーズに立つことはないのだと思えば、それはとても寂しいことでしたが、新たに作品のカンパニーに入られた方も素晴らしいお芝居で舞台に立ってくれたので、変わらず応援し続ける気持ちでした。
 変わらずといっても、熱に浮かされたような当時よりは無茶な観劇はしなくなりました。
 昔から好きなものは何度も反芻してしまう気質があるので、同じ舞台に何回も見に行きましたし、東京以外の公演も行きました。好きが高じて海外公演にも行ったのは、わたしの「好き」を振り返るときの大切な思い出です。
 キャスト変更がされてからは東京の公演を一回や二回ほど。それもコロナ禍で満足に観劇できないこともありました。
 あえて、あまりにも好きだった舞台シリーズへの執着を意識して剥がしていった期間だったように思えます。
 同じだけの好きで接してしまえば、どうしても寂しさが足かせになってしまうでしょう。
 ずっと好きでいたかったから、自分と同一にまで癒着してしまった作品と適切な距離を取る必要がありました。
 キャスト変更になってから三年はほどほどの距離で、新作の報が出れば楽しみに待ち、公演期間中はTwitterの投稿を見たり、実際に観に行ったりを楽しんでいました。

 そして昨日、シリーズ最終章の千穐楽が無事に幕を下ろしました。
「終わってしまうんだな」と思えば、自然に涙が出てきました。
 初演から八年。最後の公演は、舞台の上に立つキャストの皆さんの熱量を感じて涙し、初演からずっと続投されたキャストの方のご挨拶に涙を止められませんでした。
 わたしが好きになってからは七年です。
 猛りきった熱量で応援したときも、ゆるくまったりと楽しみながら応援したときもありました。
 それでも変わらず大好きでした。

 今朝、改めて舞台のシリーズが完結したことを思ってとても寂しくなりました。
 もうすこし自分は割り切れると思っていたので予想外なことです。
 大好きな俳優の方が離れて三年、適切な距離を保ちながら好きを続けてきた作品で。最後の幕が下りて。
こんなに寂しいなんて。やっぱりとっても大好きだったって。
 自分から切り離した執着なのに、それでも心に穴が空いたみたいで、たしかにここにあったんだと気づきます。
 作品に対する執着は、変わらず胸の内にあったんだと。

 七年ですもの。
 好きという言葉だけでははみ出してしまう感情もありました。
 あまり表に出さないように、直視しないように、そうして守ってきたものでした。
 この寂しさが、完全に切り離すことができなかった執着が、終わりを迎えていま誇らしいです。
 この七年間、グラデーションのようにずっと好きな作品をずっと好きでいられてよかったなぁ。
 これからも、あの作品をあの日々を、ずっと大好きでいられたことが、わたしの人生のお守りになってくれるでしょう。
 そう願う、これもまたわたしの執着の形です。

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