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発芽

熱が出た。
仕事が終わって病院の再診を終えてから家に帰り、嫌な予感するなーと思っていたら案の定体温計が38.0℃を指し示していた。
とにかく栄養を摂らないと行けないと思い、学生時代に熱を出したときに母親がよく作ってくれた肉うどんを作ることにした。

一人暮らしの時に出る熱は、ひどく寂しい。
ぐつぐつ煮立つうどんをじーっと見ているだけで自然と涙が溢れてくる。
自分は今、どうしようもなく1人なんだということを思い知らされる。
家族は俺のことを愛してくれていたんだな。

薄味のうどんを食べ終わった後に、倦怠感が増していることに気づく。
有給がもう残っていなかったため、次会社を休むとなると減給をくらうことになる。(これからはもっと計画的に使います)
それだけはどうしても避けたかったため、21時にベッドに入った。
熱は38.5℃まで上がっており、冬用の毛布を2枚重ね、祈るような気持ちで床に就いた。
こんな気持ちで眠るのはいつぶりだろう。

なかなか寝付けなくてベテランちというYoutuberがやっている個人ラジオを聞きながら目を瞑っていた。
そこでは彼は自分についての話をたくさんしていた。
自分と同じように強い自意識を持ちながらも自信に満ち溢れており、それに裏打ちされた知的な面白さがあった。
俺はどうしたって彼のようになれないということを遠い意識の中で悟り、これからの人生に半ば失望しながら夢の中へ連れて行かれた。
最悪の就寝である。

次の日目を覚ますと熱は37.0℃まで下がっており、なんとか仕事に行けるような体調に戻っていた。
身支度を済ませて家を出て、バス乗り場に向かう途中でなんとなくYUKIを聴いていたらあまりにもいい歌を歌うので泣いてしまった。

この世に音楽があってくれて本当によかった。
音楽は救いにならないと言う人も多いが、そんなことはない。そんなことはないんだよ。

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