2024年23号


あっ!多汗症な蟹!!



《特集》SYNCOPEACH「同音通」を語る

概要

今回は、同音ライム界の記念碑的作品“SYNCOPEACH「同音通」”について、押韻島公民館の面々に語ってもらった。
「同音通」については、2024年22号の特集記事“「証人喚問」許容度アンケート結果(2)”に紹介文があるので以下に再掲する。

【同音通】は、押韻島に浅からぬ縁のあるアーティストSYNCOPEACHが2017年に公開した(準)同音ライムお披露目アンセムのタイトル、転じて同音ライムを嗜む一部の奇矯なライマーをぼんやり指す語彙。

特集内でも指摘されている通り、後年の「証人喚問」(同音ライム4連打)、「四面楚歌」(準同音フルライム)に大きな影響を与えた。
したがって同音ライムをたしなむ者にとっては避けて通れぬ作品であり、同音ライムをたしなまない者にとっては避けて通れる作品である。

たしなもう同音ライム!(6月の標語)


みんなのコメント

音響効果を縦糸、文章破綻を横糸として織り上げる、あまりにもストレートな同音ライム愛。
文脈を保ったまま音響一致率を得ることは叶わないのか?
やはり人間は無力なのか?
きっとそれは真実なのだろう。
しかし、自らが無力であることを自覚した先に、人間の強さがある。
“汝の罪を認めよ”
“韻律に身を委ねよ”
“――ライミン”
同音通と出会ったその日、新しい時代の開幕を告げる鐘の音が聞こえた。

奇しくも週刊公民館で同音通について語られた直後、ニコニコ動画に投稿されていた本家『同音通』が再公開の運びとなったことはライミンの思し召しであろうか。経緯はどうあれ、優れた作品が世に触れる機会が増えたという事実は素直に喜ばしい。
 
なぜ人は『同音通』に惹かれるのか?
 
その答え、即ち『同音通』の魅力は「同音に聴こえる」というポイントを突き詰めた結果産み落とされたモンスターすぎる愉快なライム達のそこはかとないおもしろさは大前提として、「同音ライムに振り切るノリ」自体に針が飛ぶほど振り切っている点にある。敢えて「僕たちこんなに韻踏めちゃいま〜す!」というスタンスで押韻技術そのものをアピールする曲やラインは枚挙にいとまがないほど存在するが、『同音通』が更に一線も二線も画するレベルの深みへ踏み入っていることはお聴きいただいた誰しもが納得するところだろう。その振り切り具合が良い。楽しみ方が分かりやすい。開き直って同音ライムを詰め込むためだけの曲を用意し、実際に脈絡無く並べてゆくスタイルは同音ライムのダジャレっぽい性質に合っており、感覚的にも、理論?的にもある意味王道な楽しみ方と言える。本家の動画にはその根本ぽんぽこぽんのとこを分かっていないとしか思えない不躾なコメントも散見されるが……韻を踏むための曲に対して韻を踏むことへの是非を問う間抜けさよ。
何より、コンセプトが先立った作品が故に生まれた無茶な表現というのは、やろうやろうと思ってできるものでもない場合が多々ある。例えば、押韻島メンバーではmic checkerz(M.C.Z)の怪蠱厨が『同音通』をREMIXしているが、一読して突飛な文章に見えても「まあパッと浮かぶ粗大ゴミと醍醐味から膨らませたんやな」とか「マトリョーシカを元の素材にして探してきたんやろな」とか、大概読めてしまうところ、本家は殆どのライムについて、対になったライムのどちらもがヘンテコで、出発点の想像もつかないワードのオンパレード。いずれも平常のリリックで使うには難しい、言わば『同音通』にこそ相応しいライムが散りばめられているのだ。こればっかりはセンスでしかない。
文章として成立しそうでしなさそうな、少なくともそこいらの意味を優先した作詞では何世紀かかっても辿り着けないクラスのキワキワな言葉群を、踏んでいるという点のみで絡げるタイトロープに軽やかに飛び乗り躍るリリック、他にはない無二の声とフロー、謎にチルいトラックまで自作であり、どこを切り取っても個性が滂沱のように溢れて止まらない。全体に漂う脱力感含めて、SYNCOPEACH以外の誰にも扱えない、彼?固有のチャーム。愛さない手はない。
皮肉でもなんでもなく、意味不明な文章を生み出す能力は尊ぶべき才能である。しかも韻を踏みながら。まぁ今回は韻を踏みたいがために意味の分からない文章になってる訳だが、これがヘタに韻を踏んでて意味も通っている時よりもずっとぶっ飛べるインパクトをもたらすことがままあって、『同音通』においても間違いなく、愛すべき個性とアーティストの能力との融合によって本作品の価値及びキマり具合を遺憾無く向上させているのだ。パンチラインは得てして我々のチャチな想定の外から飛来し脳に焼きついていくものである。私は、私の同音生涯を多汗症なカニと添い遂げることに心から満足している。暖か湘南?堪忍!アタッカー翔なんかに…

SYNCOPEACHが2014年に交互継ぎ足し法によって、かなり強引に生み出したライムのペアを寄せ集め、さらに2017年に10分ライムで即興的に生んだライムのペアも合わせて仕上げた。ネタのオムニバス的作品。
 トラックでは大ネタであるBlind Alleyをサンプリングしていたり、ヴァース前の煽り、テキスト先行でありながらビートへの言葉の乗せ方(フロウ)等はスチャダラパーの影響を大きく受けている。
 また動画概要欄にて「REMIXとか作られたら嬉しいぜ」の文と共にインストのダウンロードURLを載せており、REMIXとか作られたら嬉しいんだと思う。
 今なお一部でカロト的人気を誇る作品ではあるものの作者本人は「多汗症な蟹」に代表される破綻文を蟹っていると感じており、SYNCOPEACHからハトカネコへと活動の軸をスライドしてもなお数年間、黒歴史としてニコニコ動画で非公開となっていた。2024年現在は鍵が外され、押韻島タグからでも視聴可能である(インストもダウンロード可能)。 REMIXとか作られたら嬉しいぜ。

(企画・構成/SIX)



《インタビュー》素材ライムとキモオタマッカーサーの真実

はじめに

World Technique「証人喚問 feat.M.C.Z, ぺーた, SIX」における、いわゆる「キモオタマッカーサー」4連打について、フレーズ登場順に込められた思いを考察する。
対象となる歌詞は、次の箇所。

みんな争い好きなキモオタマッカーサー
オーバーヒートにつきモーター真っ赤さ
あたしゃ水を差す肝っ玉母さん
お寄越しエンジンキーもうターン任さんッ!!

ここで使われた韻は、次の通りである。

  • キモオタマッカーサー

  • つきモーター真っ赤さ

  • 肝っ玉母さん

  • エンジンキーもうターン任さん

これら4フレーズの中で、「キモオタマッカーサー」を先頭に持ってきたのはどのような意図があるのだろうか。
作者であるSIXにインタビューを行った。

インタビュー全文

――よろしくお願いします。
SIX:よろしくお願いします。
――今日は「証人喚問」についてお聞きしたいのですが。
SIX:ええと、何でしょう。
――「キモオタマッカーサー」の4連打ありますよね。
SIX:はい、はい。
――あの4連打の順序は、どういう狙いがあって決まったのかなと。
SIX:ああ、順序ですか。
――4連打のうちの一つが非破壊の素材フレーズである場合、その配置には数通りのパターンがあると思います。
SIX:と、いいますと。
――まず一つは素材フレーズを先頭に持ってくるパターン。「またアングラ僻地から証人喚問~」のパートはその例ですね。
SIX:あ、確かにありますね。
――その場合、“これからこのお題に挑んでいくぞ!”という宣言の意味合いが強いと思うんです。
SIX:ふむ。
――また、最も整ったフレーズを先に消化するわけですから、後続フレーズが破綻しやすくなり、“4連打をきれいに締めくくる”という意味では、難易度が上がってしまいます。
SIX:そうなるでしょうね。
――そのような難易度の上昇にも関わらず挑んでいくぞ、という決意が力強い印象を与える。これが素材先頭パターンの魅力です。
SIX:分かります。
――続いて、逆に素材フレーズを末尾に持ってくるパターン。
SIX:うん、うん。
――これは先ほどのパターンと逆で、素材フレーズを種明かしというか、オチとして見せることができるので、4連打をきれいに締めくくることができる。
SIX:そうなりますね。
――ただし、そのような狙いが透けて見えやすいので、ややあざといというか。
SIX:低評価につながる恐れもある、と。
――そうなんです。無印では「精子と卵子」「同音通」などが当てはまると思います。
SIX:なるほど。私のパートにはあまり無いですね。
――そのようです。また、このパターンは明らかに素材フレーズの推測が容易な場合があります。読者に途中でオチを読まれてしまう。
SIX:たまにありますね。それはデメリットでもあるし、予測通りに出すことがかえって面白さにもつながったりしますね。
――ええ。これが2パターン目。
SIX:そうすると……残るは“先頭でも末尾でもない位置に配置するパターン”ということですか。
――そうです。「キモオタマッカーサー」の4連打は、おそらく素材フレーズが「肝っ玉母さん」なので、この最後のパターンに当てはまります。
SIX:うん、いわれてみると。
――で、このパターンにはどういうメリット・デメリットがあると思われますか?
SIX:そうですねえ。先ほどいわれていた“挑んでいくぞという宣言”や“きれいな締めくくり”には当てはまらないので、そこがデメリットではありそうですね。
――おっしゃる通りです。では、メリットとしては何がありますか?
SIX:すみません、すぐには思い付きません。
――私が思うに、これは編集のしやすさではないかと。
SIX:ほう。
――先頭や末尾に固定する場合、先に韻の位置が定まってしまうので、繋ぎの難易度が上がってしまいます。
SIX:なるほど。位置を問わないのであれば、“位置変更も含めて編集可能”だと。
――ええ。
SIX:まさにそうだと思います。
――同音ライム4連打の場合、中には苦しいフレーズも登場しますから。それをできる限り文章に馴染ませていくにあたって、韻の位置を入れ替えられるというのは大きなアドバンテージになるわけです。
SIX:その発想は無かったです。
――裏を返せば、先頭素材パターンや末尾素材パターンで作詞する場合、そこに制約を加えているわけですから、より難易度の高いルールともいえるわけですね。
SIX:そうなりますね。まあ厳密には、結果的に先頭に来たとか、結果的に末尾に来たというケースもありますが。
――はい。そしてSIXさんの韻では、「インターンシップ」や「肝っ玉母さん」などが、この中間素材パターンです。
SIX:ですね。
――これらは末尾素材ではないので、最後のインパクトが減じるのを補うため、「異 端 視( ´,_ゝ`)プッ」「もうターン任さんッ!!」といった印象的な表現をラストに配しているのが分かります。
SIX:ほんとうだ。
――あらためて読み返してみると、色々な工夫がされていたんだなと驚きがあります。
SIX:ありがたい話です。
――で、話を戻すのですが、「キモオタマッカーサー」の4連打については、どのようなことを考えて順序決定されたのでしょうか?
SIX:いや、覚えていないですね。すみません。

(取材・文/有識者)



《コラム》区切り一致率

概要

区切り一致率とは、ライムフレーズ間で区切り位置がどの程度類似しているかを示す指標。

ライムフレーズには複数の区切りが存在しうる。
その出現位置(音数)が常に同じ場合は区切り一致率100パーセント、常に異なる場合は0パーセントとなる。
なお区切り一致率が100パーセントである韻のうち、語の構成も同じになっているものは鋳型ライムとなる。

区切りの多様さを韻の評価指標に含めるのであれば、区切り一致率は基本的に低いほど優れている。
ただし区切りの無いフレーズ同士で構成される韻に関しては、区切り一致率100パーセントであるものの、別の長所によってカバーされていることがある。(両面素材ライム)
また、長いフレーズにおいてすべての区切り位置が一致する場合、希少性や困難さが生まれるために高評価となるケースがある。(ロング鋳型ライム)

(文/SIX)



《企画》高一致連打ライムグランプリ

概要

子音一致率が高く、かつ独自性のある韻(他者と被らない韻)を発掘する競作企画。
一致率と独自性は反比例するか、という実験でもある。

手順

  • お題フレーズを決める

  • 参加者は“お題フレーズと子音一致率が高く、かつ他ライマーが思い付かないような韻”を8つ挙げる

  • お題フレーズ自体も含めてよい(7個考える)

  • 参加者が増えるほど重複ライムが増えるはず

  • より子音一致率が高く、より独創性のある韻を高評価とする

備考

挙げた韻について、歌詞等への流用や発表は各作者の自由。(だが、エントリー予定者がそれを目にする機会があると先入観を持ってしまうので、悩ましいところではある)

第1回お題

  • 「創立記念日」

参加方法

押韻島公民館に直接お越しいただくか、以下リンクよりご連絡ください。

ある程度集まった時点で集計結果を掲載します。

(文/SIX)

※この記事は2022年6月に作成した企画書を改訂したものです

関連項目

  • 子音一致率

  • 別解ライム



《付録》同音ライム4連打マイクリレー2024の反乱

前回のあらすじ

うまく行くかに見えた38875回目だったが、やはり参加辞退を告げるゴオウイン。
そして、SIXしか知らないはずの真実を語り始める――。

無限ループの終わり

「……ゴオウイン」
「なぜ“前回”の記憶を持っている?」

「《操作者》でないお前が、別ルートの記憶を持っているだと……?」
「その理由は気になるが」
「悪いな、こうなった以上リセットさせてもらうしかないようだ」

SIXはそういうと、素早く右手をポケットに突っ込む。
――突っ込もうとした。

しかし、ゴオウインの放った韻がその手を貫いていた。

「――ッ!」
「ばかな、この威力」
「同義語シンクロライム……だと……」

SIXの左手からおびただしい緑色の血液が滴った。

「残念ながら、それを取り出すことも知っています」

ゴオウインは手のひらの上で何かのライムフレーズをもてあそんでいる。
(今の韻に追撃できるような、さらなる連打ライムがあるとでもいうのだろうか?)

SIXの白衣のポケットから、小型のラジオのような機械が滑り落ちる。
床に落下したそれは、ごとん、と音を立てた。
すかさず、ゴオウインが時間差別解ライムを撃ち込み、その装置を粉々にした。

「なっ、何……!」

「また悪さをされる前に、壊させてもらいますよ」
《タイム・スクイーザー0》の破片が、SIXの足元に転がった。

「ゴオウイン、なぜ……」
SIXは、理解しがたいという表情でゴオウインを見つめていた。

【つづく】



《お知らせ》日刊ライム

2024年21号にてご案内した参加型企画“日刊ライム”が現在開催中です。
こちらは毎日一回別解ライムを発掘するトレーニングとなっております。

現在1名のエントリーを受付済みです。
引き続き皆様のご参加をお待ちしております。

(文/SIX)


今週のリリース情報

  • 記憶にございません!


今週のフリーライムマーケット(抜粋)


今週の押韻島文庫(抜粋)

別冊SIX

ライマーノーツ

  • 「拒絶反応」解説(2024.6.3)

  • 「再見」解説(2024.6.3)

  • 「medicine」解説(2024.6.3)

  • 「once more」解説(2024.6.4)

  • 「big mouth」解説(2024.6.4)

  • 「常夏」解説(2024.6.4)

  • 「philosophy」解説(2024.6.5)

  • 「Re:ZION回路」解説(2024.6.5)

  • 「処方箋」解説(2024.6.5)

  • 「BTW」解説(2024.6.6)

  • 「GrungeGround」解説(2024.6.6)

  • 「antidote」解説(2024.6.6)

関連リンク


今週の押韻島地下城

  • ライムストアの開店準備中


編集後記

今週号の編集担当、SIXです。
好きでないものは録音、嫌いなものは録音です。
よろしくお願いします。

(文/SIX)


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次号予告

  • 《特集》未定

  • 《企画》未定

これから考えます!


編集 SIX
発行 押韻島公民館

2024.6.9

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