【短編小説】9/28『ミニチュアワークショップ』
どうしても眠気に勝てなくて寝てしまい、起きたら作りかけの靴が出来上がっていた。という童話を思い出した。
目の前の作品が全部作り終わっていたからだ。
ありがたいけどそうじゃない。
完成させられた作品は、ただ全工程完了してるってだけで販売に耐えられるクオリティではなかった。
配置はダサいし気泡だらけだしバリはバリバリ残ってる。
いまはまだ駆け出しのハンドメイド作家だけど、だからこそ作品作りにはこだわりたい。これも出来上がったら販売サイトにアップする予定だったもので、特に急ぎの納期などはない。
いや、ありがたいんだよ、ありがたいんだけど……っていうか、誰が作った?
童話の世界を基準に考えてしまった。ここは現実。コビトなどいるわけないのだ。
けれど寝ぼけて自分が作ったわけじゃない。癖のような自分独自の作り方がまったく出ていない。
もしや忍び込まれた……? いや、電気も点けずにこの作業を終わらせるのは無理だ。UVライトの光くらいならわからないかもだけど、さすがに電気が点けば気づいて起きるはず。
戸締りを確認したけど、ドアチェーンもかかったままで問題なし。ということは室内にナニかが滞在してるってことか……?
正体不明のモノが部屋にいるかも、という事実が怖くて、わからないよりはわかっていたいという理由で、夜間撮影が可能なセンサー付きカメラを設置。雑な仕事されてもいい状態の、【作りかけ】の作品を机の上に置いたまま眠った。
翌朝。
机の上に置いてあった物は、やはり販売に耐えられないクオリティで完成させられていた。
よくよく明るい部屋で、昨日仕掛けたカメラの映像を見る。
明るい部屋で見るのは、なにか得体の知れないものが映っていた時に怖さを軽減させるためだ。
わずかな光源を利用して撮影された動画には、道具を抱えてアクセサリーを作る【コビト】が映っていた。
マジか。
ハッキリとは見えないけど、童話なんかで見る“イラスト”のような見た目ではなく、人間がそのまま小さくなったような顔付きで、正直可愛くない。
作成完了後、コビトらはお互いにハイタッチして机の端から縄梯子のようなものを垂らして映像から消えた。
イエーイじゃねぇよ。材料費だってタダじゃないんだぞ。
コビトらが消えていった場所を探ると、机に隠れた壁に小さいドアがあった。入居したときには気づかなかったけど、最初からあったんだろうか。
「おーい、聞こえるー?」
人間語が通じるかわからないけど、声をかけてみる。
「見ようとか捕まえようとかじゃなくて、話を聞いてほしいだけだからドアは開けなくていいよ」
あの映像を信じて切々と語りかけた。
「私、ハンドメイド作家として生計立てたくて作品作りをしてまして。お手伝いいただくのは嬉しいんですけど、いまはまだその段階ではないというか。それに、販売する作品は、全部自分の手で完成させたいというか。えーっと……」途中でなんだかわからなくなってきた。「なので、お手伝いは、もう、大丈夫です。ただ……」
誰かの【興味】を無下にしたくない。その一心だった。
その一心だけで、打診したんだ。
作りたいのだったら、作り方教えますよ、って。
そしたらその直後に小さな扉がバーン! と開いて、中からリアルな人間顔の小さい生き物がわらわら出てきた。
驚いたり怯えたりするのは失礼だと思いつつ、やっぱり怖さが先に立って、後ずさりしてしまった。
『あぁ、驚かせたね、申し訳ない』
髭が長い、長老のようなコビトが小さい拡声器を通して喋った。人間語だ。
『私たちはこの家の庭の大木に古くから住む、妖精……のような存在。あなたたちの世界で言う【コビト】です』
コビト達は先ほどの私同様、心情を語ってくれた。
どうやら私が家を留守にしている間、私が作った作品を見て憧れを抱いてくれたよう。自分たちもこういう物を作ってみたいと思ったそうだ。
材料も道具もないし我慢していたけど、この間の【作りかけ】を見てウズウズし、つい手を出してしまったんだとか。
なんだ、同志じゃん。
そう思ったら急に親近感が湧いて来て、彼らを相手にワークショップを開くことにした。
通貨という概念がない彼らから授業料はいただけないけど、代わりに綺麗な葉っぱとかお花とか、自分たちで作ったドライフラワーなんかの自然資材を集めて持ってきてくれた。
買うと割と高いから有難い。
他人に教えると自分の技術も向上するし一石二鳥だ。
お茶の時間に雑談してたら、昔は靴作りの手伝いをしてたと聞いた。あの童話、実話だったんだ?
今度は私がコビトたちに革製品の作り方を教えてもらう約束をした。
いつか一緒に販売できたらいいね、とウキウキしながら作る作品は、いつもより輝いて見えた。
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