【短編小説】10/23『自作至上主義』
いつだって欲しいものがない。
正確には、欲しいと思った物が商品化されていない。
だからいつでも手作りしてきた。
文房具、調理器具、お洋服……。手作りしていくうちに、ワタシの手作り力が鍛えられ、いまでは大体のものを自作できるようになった。
だから今度は、コレを作ると決めた。それは良く漫画に出てくる、みんなの【理想】。
イケメン爽やか男子。
私だけを一途に愛して、一番大事にして、一番に考えてくれる。そんな“彼氏”を作るんだ。
市販されているソフトを使うのが一番早いけど、アレだと選べるパーツが限られているから、本当の“自分好み”にはできず、多少の妥協が必要になってくる。
だからまずは、ソフトウェアの開発から。
3Dアバターを作れるソフトを開発し、自分好みの“キャラクター”を生み出した。
この時点ではあくまでまだ“キャラクター”なだけ。自我などはない、ただの映像。
ここから、独学で得た召喚術を使ってキャラクターに自我を入れる。
そうして生まれた“私だけを愛してくれる彼氏”と、画面越しに逢瀬を重ね、毎日を過ごす。
彼は画面のアチラ側で彼の才能を活かせるお仕事をして、彼の趣味が詰まったオシャレな部屋で生活をする。
私は画面のコチラ側で中小企業の総務部で働きながら、物が少ないワンルームで慎ましやかに生活してる。
お互いの休日には、ゴーグルを装着してアチラ側の世界に私が入ってデートをしたり、彼に小型端末機に入ってもらってコチラの世界でデートしたり。
時には、実際に触れられないのがもどかしいと二人で涙しながら、愛を育んでいった。
そうして出来た、私だけを一途に愛して、一番大事にして、一番に考えてくれる私の彼氏は、今日も画面のアチラ側から私に愛をささやいてくれる。
あとは、彼が画面から出てこれる技術を実装するだけ。
それには高度な技術の習得が必要だけど、私たちの愛には、そんな障害もエッセンスとして作用するだけだ。
もう少しで、“理想の彼氏”が生まれるのよ。うふふ。うふふふふ。
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