【短編小説】6/21『5W2H』
神様に世界一周したいと願ったその夜、早速叶えてもらった。
空を飛んで、ビューンって地球外周をぐるり。
違う、そうじゃない。そうなんだけどそうじゃない。各地を旅したりして点々とさ。
でもまぁ、一周させてもらったことにかわりはないので、お礼に行った。
(神様、今日夢でかなりリアルな世界一周を視ました。先日お願いした件かと思います。ありがとうございます。でもですね、イメージとちょっと違っていたというか……)
『おぬしもか』
頭の中に声が響く。
「も?」
思わず答えて、不思議に思う。誰の声だ。
あたりをキョロキョロうかがうけど、声の主は見当たらない。
はて? と首を傾げて再度お礼を言う。
(いやでも、あんな風に地球を見ることなんて絶対できないので、貴重な経験でした。ありがとうございます)
頭を下げたら、なんとなく心が弾んだ。嬉しい気持ちを受け取ったような感覚。
なんかよくわからないけど、嬉しい気持ちになったんだったらいいか。
ペコーと頭を下げて、賽銭箱の前から離れた。
境内の中をぶらぶら歩きながら、なおも考える。
旅行としての世界一周は、自分でなんとかできるもんな。宇宙空間を飛んでいく世界……というか地球一周は、さすがに自力じゃ無理だし。
瞼を閉じると浮かんでくるあのリアルな光景は、思い返すと更にありがたみが増す。
目が覚めたときは『そうじゃない』感が強かったけど、うん。やっぱり貴重な体験させてもらったな。
またなにかお願い事があったら、この神社に来よう。そのときはもうちょっと、具体的に叶えてほしい内容を伝えよう。
神様も案外、全部伝えないとわからないのかもしれないし。
そんな意識改革があったあと、その神社で事細かに事情を説明したり叶えてほしい理由を伝えたりしていたら、お願い事を叶えてもらえる確率が高まったように感じた。
仕事の引継ぎでも主語が抜けると結局聞かなきゃよくわかんないってこともあるし、やっぱり伝えるって大事だな。
普段はあまり感謝とかしないほうだけど、今度のボーナスで、世界一周は無理だけど、家族を旅行にでも連れて行ってみるか……。
そうと決まれば帰り道すがらにある旅行代理店でパンフレットをもらって~、なんて考えながら、いつもの神社をあとにした。
なんだかとても嬉しい気分がずっと続いて、とてもいい日になった。
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