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【短編小説】4/18『咲き誇れ、その花の中で』

「それではみなさん、私に続いてください」
 リムの目尻がとがった眼鏡をかけ、伸縮式の指示棒を振りながら女性の講師が声をあげる。
「希望!」
「「「希望!」」」
「常に前進!」
「「「常に前進!」」」
「前向き!」
「「「前向き!」」」
「これらの信念を心に、人々の幸せの片隅に存在しましょう! 以上で本日の授業を終わります」
「きりーつ! れい!」
「「「ありがとうございました!」」」

 ここは花の精が通う学校、ガーベラ組の教室。白い花に身を包んだガーベラの精が、束の間のー休み時間を楽しんでいる。

「もうそろそろ専門コースに進学ね〜」
「そうね、なんだか早かったわ」
「何色科にするか決めた?」
「うーん、ガーベラは色科が多いから悩むのよねー」
「でも途中コースで変えられるんでしょ?」
「できるけど、また最初から習いなおしになっちゃうの大変じゃない?」
「そっか、確かに」
「人間の気まぐれで減ったりしたら嫌だから、汎用性の高い色にしようかな」
「うーん、それもあり」
 花の精たちは専門コースの案内書を見ながらあれやこれやとおしゃべり。
「花言葉がある程度決まってるから、自分の性格とかと似てるのを選んだほうがいいって先輩が言ってたわ」
「それもそうね。思ってもないことを見る人に振りまいてもねぇ」
「ガーベラは明るい言葉が多いから選んだんだけど、ずっとじゃ疲れちゃうかなぁ」
「今更じゃない?」
「そうだけどー」
 色とりどりのガーベラの写真。その下に書かれた花言葉や花の特徴を見て、妖精たちは目移り中。
「いまのうちに試してみて、それから決めるといいわよ」
「先生」
「先生は何色の精だったんですか?」
「先生は色々、渡ってたの」
「へぇ~」
「そのうちに色々身についてきてね。それで先生になる道を選んだのよ」
「そういう進路もあるんだー」
「あなたたちは生まれたてで若いんだから、そんなに焦ることないわ? ずーっと同じ色を担当する妖精もいれば、先生みたいにいろんな色を経験する妖精もいる。それぞれなのよ」
「でも花自体を変える妖精(ひと)はいないですよね」
「いるんじゃない?」
「そうなんですか?」
「ずっと存在していると、時に方針変更したくなるものよ。本当にそこまで固く考えなくていいの。先生だって、いまはどの花も担当せずに、あなたたちに教える立場になってるんだから」
「そっかー……」
「悩んだら話しにきなさい。咲きは長いんだから、頑張りすぎないこと」
「「「はぁーい」」」
 ここは花の精の学校。様々な色や種類の花に宿る花の精を育てる場所。
 どこかで咲いた花に派遣され、人々に癒しを与え花の繁栄を手助けするために、生徒たちは今日も勉学に励むのだった。

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