【短編小説】9/23『ドラマチックなことはなにも起こらない日常』
フラッシュモブいいな~ってうっとりしながらテレビを視ていて、ふと横にいる彼女を見たら、恐ろしいほどにしかめっ面してた。
いつかプロポーズのときにやろうかと思ってたんだけど……。
「……イヤ? こういうの……」
「うん」
間髪を入れずうなずく彼女。
「どうリアクションしていいかわかんない。ってか終わりどころがわかんない。あと、目立ったり注目されるのもやだ」
「そっか……」
しょんぼりする僕に
「ごめんね」
彼女はまっすぐ前を向いたまま言った。
「えっ。な、なんで?」
「ん? なんとなく」
彼女は昔からそう。僕が考えていることを“なんとなく”察知する能力に長けている。
僕が彼女のことを好きになって告白しようかどうしようか悩んでいたときも、なんとなく察してくれて付き合えることになった。
一緒に住みたいけど言い出せないなぁって悩んでいたときも、ちょうど家の更新時期だからって二人で暮らせる家を見つけてくれた。
彼女に頼りっきりは良くないなぁ、と思いつつ、気弱で決断力のない僕はついつい甘えてしまう。
だからプロポーズのときくらいは、と思っていたけど、その決意も彼女にとっては見当違いだったみたいだ。
彼女はなんで、僕なんかを選んでくれたのだろう。
こんなに趣味や感性が違うのに。もっといい人がいるはずなのに。
それすらも聞けない僕は、いつか急に彼女が僕のそばから去ってしまうのではないかと心配しながら、彼女と一緒に暮らしてる。
いつか、もっと強く、気丈にならなければと思いつつ、なかなか実行に移せないまま。
モヤモヤ悩んでいたのが伝わったのだろうか。彼女がテレビに視線を向けたまま、小さく息を吐いた。
ため息つかれちゃった、と思ったら違った。
すぐに小さく息を吸って、彼女が一気に言った。
「大勢が集まるようなこういうのは苦手だけど、二人きりのときにだったら、まぁ、って感じだから……」
「えっ」
驚いて彼女を見たら、頬杖をついた手の隙間から見える耳は赤かった。
「う、うん。ちゃんと考えておく。うん」
きっと彼女も、僕が主導することを希望してるんだ。じゃあやっぱり、いまのままじゃダメだ。ちゃんと、自分の意思を伝えないと。
いつかのときのために、彼女が喜んでくれるようなプランを立てる。あまり待たせてしまわないように、迅速かつ、丁寧に。
架空の物語みたいな展開にはならなさそうな僕らだけど、それでも毎日幸せで、ときめいて、愛しくて。
そんな日常を毎日続けて、歳をとっても手を繋いでデートできるような二人でいたい。
だからそうなれるように、僕は精一杯、彼女を愛する。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?