【短編小説】4/28『幸せを運ぶ四つ葉』
四つ葉のクローバーだと思ってたのは四つ葉のカタバミだった。
でもカタバミの四葉のほうが存在する確率が低いらしいと最近知った。
とはいえ最近見てないなー。草原は立ち入り禁止だったりするし、道端の野草を見るような趣味もないし。
子供の頃は躍起になって探したりもしたし、いくつか見つけた記憶もあるけど、それが幸運を呼んでくれたかどうかはわからない。
子供の頃に摘んだあの四つ葉はどちらの葉だったのか。
そういえば押し花にしてしおりを作ったような……。もしかして実家のどこかに眠ってたりするのかな……。
そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、自宅から電車で三十分のところにある実家へ赴いた。
「あらあんた、どうしたの。連絡くらいちょうだいよ」
「いや、ちょっと探したいものがあって。俺の荷物捨てちゃった?」
「取ってあるけど……どう見てもゴミってのは捨てちゃったわよ」
「そうか……。とりあえずあがるね。あ、ただいま」
「はい、おかえり」
玄関先を掃除していた母が不審そうに見ているけど、四つ葉のしおりを探しに来たって言ったらもっと不審がられそうで言えない。
とりあえず探しつつ、適当な理由も考えよう。
慣れ親しんだ実家にあがり、階段を使って二階にある“子供部屋”へ。
母が掃除してくれているのか埃っぽさはなく、とはいえ誰も使ってないから人の気配はあまり感じない。
使うものはいまの家に持って行っているし、ここには“幼少期の思い出の品”しかない。
前回帰ってきたのは一昨年の年末だったか……。今年は色々忙しくて帰省できなかったから、ほんのちょっと懐かしい。
本当に要らないものとか消し去りたいものもありそうだから、整理がてら目的の物を探し始めた。
とりあえず押し入れの中の箱。要るものと要らないものにわけつつ探し物。
ノートが詰まった箱の中から、出るわ出るわ“黒歴史”。
漫画家になりたくて描きためてた、ほぼ衝動的な展開のストーリー漫画。コマ割りなんかも法則無視。というか見栄え無視。ただ線で区切ってあるだけの見様見真似な構図。
そういや休み時間全部使って描いてみんなに読んでもらってたわー。懐かし恥ずい。
いずれなにかの資料になるかなぁ、と元の場所にしまう。ほかの箱も開けてみるけど、それらしきものは見当たらない。
うーん、やっぱり捨てちゃったのかなー。
「ねー、夕飯食べてくー?」
階下から母の声。
「うーん、食べたいー」
「じゃあちょっと買い物行ってくるから、留守番よろしくー」
「はーい」
返事したはいいけど、留守番て。子供じゃないんだから。
こんな狭い押し入れにこんなに箱って詰められるの? って量の箱を開けて中を確認してたらなんだか疲れてきた。
小休憩するために本棚から一冊取り出した。小学生のとき流行ってたギャグ漫画だ。
上着を枕に横になってページをめくる。うおー、懐かしい。これクラスで良くマネしてたなー。とか思いながら読み進めてたら、顔の上にひらりとなにかが落ちた。
手に取って見たら、葉っぱが挟まったしおりだった。
「あ」
これじゃん。なんだ、箱の中じゃなかった。っていうかしおりなんだからそりゃ本に挟むよな。
当時一番お気に入りだったページに挟まっていたその長方形。手貼りのラミネートフィルムに圧着された四枚葉の植物。
カタバミの葉はハート型で、クローバーの葉は楕円型。という豆知識を思い出しながら確認したら、葉っぱの形はハート型だった。お、レアなほうだ。
挟んでたページにしおりを戻してスマホで写真撮って、漫画を本棚に入れる。我ながら名作ぞろいの本棚だなと、背表紙を見つめてご満悦。今度何冊か運び出そうか……。
「ごはんよー」
「はーい」
階下からの声にリビングへ行ったら、いつのまにか父も帰ってきていた。食卓には晩酌セットが用意されている。
お互いちょっと照れ臭さを感じながらお酌をしあってみたりして、大人になったなぁと実感する。
久しぶりの母の手料理は美味しくて、一泊するのに出してもらった客用布団は乾燥機かけたてのフカフカで。
四つ葉がキッカケで思い立って帰ってきた実家を満喫できて、思いがけず幸せな休日だった。
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