【短編小説】7/28『自由でいいって言ったのに。』
夏休み! 遊ぶ予定いっぱいだから宿題は7月中に終わらせたい!
ドリルやプリントは得意だけど、読書感想文とか自由研究は苦手。自由とかいって本当は自由じゃない感じがなんかむかつく。
読書感想文も、読んで面白かったって思うだけで特に感想とかないし、【作者のこのときの気持ち】もわかんない。
歳が離れた小説家の姉に、書いてるときどんな気持ち? って聞いたら、「締切やばい。腰痛い。オチどうしよう」って返ってきてから、より一層苦手になった。
自由研究の定番は工作とか図画とかなにかの観察日記とか? ネットで調べて出て来た題材がクラスの誰かとカブっても嫌だし、とっても悩んで探して、やっと見つけた。
「ねぇママ、これ使って自由研究したい」
「えぇ? いいけど……届くまで時間かかるかもよ? ホームセンターの種じゃダメなの?」
「うん。これ、ここにしか売ってないみたい」
「そう。じゃあ、1袋注文するわね」
「ありがとう」
そうして届いたのが【ミラクルミント】の種だった。
『ミラクルミントは育てる人によって違った姿に育つミントです。
真面目な人が育てれば普通のミントに。
面白い人が育てれば面白い形のミントに。
あなたが育てたミントは、一体どんな姿になるでしょう。』
販売ページに書かれていたその説明文がとても気に入ったのだ。これなら、誰かが同じ種を買って育てたとしても、同じ結果にならないんじゃないかって。
ミントを収穫し終えるまでに約一ヶ月かかるらしいから、夏休み期間にちゃんとやりましたって提示するのにちょうどいいのもポイント高い。
ママが使ってた鉢植えと、残ってた培養土をもらって、早速種を植えた。
観察ノートの最初のページに、鉢植えとそれに入った土の絵、余った場所にミラクルミントの種が入った袋の絵を描いた。
きっと何日間かは変化のない鉢植えの絵を描くことになるんだろうなと思いながら、その日は眠った。
次の日、ママの悲鳴で目が覚めた。
部屋を出たところで、ゴルフクラブを持ったパパと鉢合わせする。
「「ママッ⁈」」
パパと二人でリビングへ駆けていったら、ママが座り込みながらこちらを見て、ベランダを指さした。床には落としたらしき洗濯物が散乱してる。
「わっ!」
パパがベランダを見て悲鳴をあげた。
私は嬉しさのあまり飛び跳ねながらベランダへ近づいた。
昨日植えたばかりのミラクルミントが、もう実をつけている。
「きゃー! すごい! なにも言ってないのにお願いがわかっちゃうんだ!」
ミントの葉の根本にできた【実】は、赤ちゃんのカタチをしていた。
「あ、あんた、赤ちゃん欲しいの⁈」
ママが言う。
「違うよ、弟か妹が欲しいの。ミラクルミントがその願いを聞いてくれたんだよ!」
「え、それ、本物じゃないよね……」
パパは怯える。
遠くからみたらリアルな人間の赤ちゃんに見えるけど、近くで見ると人形の赤ちゃんだ。横に寝かせると目をつむったりミルクを飲んだりする人形。
「ねぇパパ、それなんとかしてよ」
ママは気持ち悪そうに顔をしかめて、ミントのほうを見ないようにしてる。
「えー、いいじゃん、可愛いじゃん。あ、日記描かなきゃ」
「ほ、ホントに動かない……?」
パパが恐る恐るゴルフクラブで実をつつく。赤ちゃんの形をした実は、ただ揺れる。
私が日記を描き終わるまで、パパとママはなにやら話し合っていた。
日記帳を閉じたら、葉の部分が邪魔で洗濯物を干すスペースがなくなったからなんとかして、とママが訴えた。確かにベランダ一面を隠すように、ミラクルミントの葉が繁ってる。
仕方なく、通販したページにアクセスして対処法が書かれていないか見てみる。
「『※ミラクルミントはアルコールに弱いので、アルコール類には触れさせないでください。』だって」
「そういっても、うちは酒飲む人いないしなぁ」
「料理酒も切らしちゃってるわ」
「消毒用のじゃダメなの? 玄関にあるやつ」
「「あぁ」」
パパとママは手を叩いて納得して、パパが玄関から持ってきた消毒液をミントの根本に注いだ。
ギュッ! と音がして、ベランダを覆っていた“ミラクルミント”が一気に枯れた。もちろん、可愛い赤ちゃん型の実も一緒に。
「あー! ひどい!」
「仕方ないだろ、実だけ残すのも可哀そうだよ」
ミントの末路にママはますます顔をしかめて「残ったタネにもかけて、全部捨てて」と言い放ち、具合が悪いとソファに横になった。
とても残念だったけど、結果的に自由研究が早く終わって楽だった。
夏休み明け、先生に見せたら先生は笑って、「再提出ね」って言ってきた。全部ホントのことしか描いてないって言ったのに信じてもらえなかった。
大人って頭が固くて不自由だなぁと思った。
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