【短編小説】3/21『夢が詰まった箱』
ほっかいどうの おじーちゃん、おばーちゃんが かってくれたよってママからハコをもらった。
なかにはラベンダーいろのランドセル。
わぁい! わたしがほしかったいろ、おぼえててくれたんだ!
パパがスマホをわたしにむけた。
「おじいちゃんとおばあちゃんに、ありがとうして~」
「おじーちゃん、おばーちゃん、ありがとぉ!」
「よーし、しょってみようか」
ママがわたしのせなかに、ランドセルをのせた。
「わー、かわいい!」
「おー、いいねぇ」
パパもママもほめてくれて、わたしはうれしくてピョンピョンとんだ。
* * *
部屋を片付けていたら、子供の頃書いていた絵日記が出てきた。
あぁ、そうだった。すごく嬉しかった。その感情は覚えてる。
ランドセルは私を守ってくれた。
突き飛ばされたとき、振り回された棒が当たったとき、投げられた石が降りかかったとき、ランドセルがなかったら、私の身体のどこかに、消えない傷が残っていたかもしれない。それを代わりに受けてくれたのは、6年間一緒に過ごしたランドセルだ。
両親から贈られて以来、中学高校と使い続けて手に馴染んだランドセルをリメイクした小物を撫でる。
もうさすがにくたびれて来たし、あまりいい思い出もないし、この機会に処分しようかと思っていたけど……思いとどまる。
いつかいい思い出になる、の“いつか”は、いまかもなって。
今度の春、大学入学と共に家を出て一人暮らしすることになった。
小学校のころにちょっかいを出して来た男子とはもう全く交流がない。子供の頃の関係なんて、割とそんなものだ。嫌な思い出はついて回るけど。
リメイク品の傷を指でなぞる。
ランドセルの傷は直らなかったけど、心の傷はいつか癒えるだろうか。
引っ越し用の段ボール箱に、ランドセルリメイクの小物を入れる。
多分ラッピングに使われていた箱もどこかにあるはずだから、両親から贈られたときの状態に戻して飾っておこうかな。
いつか私に子供ができて、小学校を卒業したら同じようにしてあげたい。そのランドセルには、きっといろんな思い出が詰まってるから。
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