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【短編小説】4/19『雅な竜と普通の人間』

 街で竜の雛を拾った。
 自然に任せろって良く聞くけど、どうしても放っておけなかった。
 だってつぶらな瞳でこっち見て、助けてって鳴くんだもん。まだ人間語喋れないみたいだけど、確実にそう言ってた。
「キミは肉食派? 草食派?」
 草陰からそっと拾い上げ、聞いてみるけど竜の雛は首をかしげる。うーん、参ったな。
 昔だったら飼育してる人もいたけど、いまは条例で禁止されてる。昔の人が乱獲したり異種交配させたりして、在来種は絶滅危惧種に認定されてるとか。
 勝手に棲みついたり懐いたりする分にはいいらしいけど、今回のはー……回復したら野生に戻せばいいか。
 色々調べてみたけど、新種なのか珍種なのか、情報は得られなかった。
 食べるかわからないけど、人間が食べる用の野菜と肉、数種類を買ってみる。
「好きなのどうぞ」
 小皿に乗せた食材を雛の前に置いた。
「肉、焼いたほうが良かったかな。あ、でも自然に戻ったときに不便か」
 雛はすべての食材の匂いを嗅いで、野菜を選んだ。お、これならあげやすくて助かる。
 結局肉には目もくれなかったから、余った分を焼いて自分で食べた。ウマい。
 野菜をたっぷり食べた雛は、バスタオルと段ボールで作った寝床でスヤスヤ眠った。
 怪我はないみたいだけど……どこかで親とはぐれちゃったんだろうな。うーん、どうしたものかなぁ……。
 ネットで色々調べてたら、人と竜が交流するためのサロンに行き着いた。
 起こさないように写真を撮って、『迷い竜の雛、預かってます。』というタイトルで、写真と共に見つけた場所と状況、雛の状態、あげたごはんなんかも書く。
 万が一、雅な出生だったりしたら、誘拐犯と疑われるかもしれない。そんなの絶対嫌だから、ホントに細かく状況説明を書いてから送信する。
 竜の世話なんてしたことないし、情が移るのもなんだし、すぐ見つかるといいけど……。
 なんて思った矢先に返信があった。いまから迎えに行く、とのこと。えぇ、早いな! っていうか住所とか書いてないけどどうやって? とマゴマゴしてたら雛が「ピィ!」と窓に向かって鳴いた。え、声めっちゃ可愛い。
「窓? なんかある?」
 カーテンを開けるとそこは夜の闇……じゃなくて、なにかでかいもので視界が塞がれてる。
「うお⁈」
 慌てて窓を開けたら、雛が飛んでその物体にぶつかった。
『坊、無事だったか』
「ピィ!」
「え」
 声は窓のはるか上、頭を出して見ないとわからない位置から聞こえた。
『すまない、坊が世話になっていたようで』
「いえ。わ」
 その竜の親は、ニュースなんかで良く見る『竜の総統』、竜王だった。
『人間界への外交時にはぐれてしまい、ずっと探しておったのだ。誘拐かもしれぬと表沙汰にはできず、弱っているからか交信もできず……』
「交信ができるんですか」
『うむ。竜の間でのみだが。詳細を書き添えてくれたおかげで、あらぬ疑いをかけずに済んだ、ありがとう』
「いえ、お返しできて良かったです」
「ピィ!」
「良かったね、お父さんと会えて」
「ピ!」
 雛は嬉しそうに竜王にすり寄っている。
『礼は必ず』
「可愛さをいただいたので、お気になさらないでください」
 竜王は私の言葉にハハッと笑って、『では』と飛び立った。竜王の羽ばたきで生まれた風は渦を巻いて、竜と共に上空へ消えていった。
 ……あーぶねー!
 緊張感に抑えられていた汗が、一気にドッと出た。威圧感とかそういうの、おそらく最小限に抑えていたんだと思うけど、それでもやっぱり圧が凄かった。雛にタメ口つかっちゃったけど大丈夫だったかな。いや、なにも咎められてないし、大丈夫だよ。それよりあの投稿、消しておいたほうがいいか……とサロンにアクセスしたら、すでに迷い竜の記事は削除されていた。
 もうちょっと一緒にいられるかと思ってたから残念だなー、って考えてたんだけど、その残念さは杞憂に終わった。

「また抜け出してきたの?」
「ピィ」
 坊は首を横に振る。一応外出許可は取ってきているらしい。
「ならいいけど……どっか行く?」
「ピ!」
 最近は人間語も習っているようで、喋るのはまだできないけどヒアリングはほぼ完ぺきのよう。最初に会った時よりも意思疎通がスムーズだ。
「私も竜語、習おうかなぁ」
 気まぐれに呟いたら、坊は思いのほか嬉しがってピィピィはしゃぎだした。
 おぉ、マジか。じゃあちょっと、参考書でも探すか……。
「ちょっと坊ちゃんとお買い物に出ますね~」
 どこかにいるであろう竜の近衛兵に声をかけると、空から竜用の子供服が降ってきた。それで見た目を隠せということらしい。
 坊はイソイソとそれを着て、「ピッ!」と私に笑いかけ、肩に乗った。
「よーし、行こう」
 部屋を出て、本屋を目指す。通訳できるくらいまでは頑張るか~。

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