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【短編小説】7/19『大体300円前後』

 買い物してるとき、いつも気になっていたものがある。
 でも大人が自分のために買うのもなーって。
 ただあるとき気づいた。誰が誰のために買ってるかなんて、自分以外わからないじゃんって。
 だからある日思い切って買い物かごの中に入れたんだ。
 知育菓子。
 本当の子供の頃はこねこねするだけのしかなかったから、いまみたいにミニチュアフードが作れる、しかも食べられるキットが手軽に買えるのはありがたい。
 家に帰って部屋着に着替えて早速箱を開ける。
 箱の背面に描かれた説明図を参考にして、下準備を始めた。
 まずはキット一式が入ったアルミ袋をハサミで開ける。あとでミニチュアフードを乗せるテーブルクロスになるらしい。
 プラスチックのトレーに詰められた小袋を全部取り出して、指示通りにトレーを三分割する。
 三角柱型のコーンをトレイの窪みに立て、長方形のウエハースを付属のスプーンで四分割する。みっつは同じサイズの正方形、ひとつは小さな長方形。
 次は一番大きなトレーでクリームを作る。バニラ味とイチゴ味。さっき取り出した小袋を開けて、二種類の味の粉をくぼみに入れる。最初に切り離した小さいトレーが計量カップになってて、カップ一杯のお水をそれぞれに入れて付属のスプーンで良く混ぜるとクリームができる。
 絞り袋に二種類のクリームを左右に分けて入れる。袋の中に仕切りがあるから、絞り出したときにミックスソフトになるの面白い。良く出来てるわ。
 今度はチョコソースのもとを入れて水と混ぜ混ぜ。ソフトクリームにトッピングとしてかけるらしい。
 絞り袋を整えて先を切り、立てたコーンに巻きながら絞ればソフトクリームの完成。仕上げにチョコソースかけて長方形のウエハースを刺したらめっちゃカワイイ。
 正方形のウエハースの上にクリームを絞り、その上にウエハース、そしてクリームと重ねれば、三段のミルフィーユが完成。
 残ったクリームは成形済の船型土台にジグザグ絞ってタルトにする。
 わーい、できた。
 指定のお菓子を全部作り終えて、最初に切ったアルミ袋の上に並べた。
 うおー、カワイイ。あぁー、なんだこれ、なんか脳内物質出てる。幸せホルモンとかいうやつだろうか。
 家族や恋人と楽しく過ごしてるときに出るらしいけど、一人でも出るなんてめっちゃお得。
 食べたら味は大体全部同じだけど、まずくはないから大満足。
 近所のスーパーにまだ他の種類があったはずだから、明日の仕事帰りにまた買おう。
 そんで、仕事でたまったうっぷんとかストレスを、ミニチュアフード作りで解消しよう。
 お手軽な楽しみを見つけられて、心もお腹も大満足だ。

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