【短編小説】5/28『夜に咲く』
最近はどこの公園でも禁止になってしまった手持ち花火を楽しみたくて花火ができる場所を探したら、自分が住んでいる区は全域で禁止されていた。
煙とか火の不始末とか色々近隣に迷惑をかける可能性があるとはいえ、なんか寂しいなぁ。
部屋を片付け中に出てきた十年前の手持ち花火を眺めつつ感傷に浸る。
そういえば、手持ち花火したのなんてもう何十年も前の話。いまでもできるところはあるみたいだけど、どこも自宅からは若干遠くて面倒だ。一緒に遊んでくれる家族や恋人がいたらまた話は別なんだろうけど、あいにく彼女なしの一人暮らしなんだよな。
そもそもこの花火、なんで持ってんだっけ……そうだ。当時付き合ってた彼女と一緒に買ったんだった。
購入時の光景を思い出して、少し切ない感情が芽生えた。
約束をしていた日が雨になっちゃって、じゃあまた来年やろうねって約束したまま別れてしまった。
僕と彼女がそれぞれ選んだ花火。彼女はまだ持っているだろうか。
ずっと持ってるのが未練たらたらっぽくて恥ずかしくなって、でも捨て方もわからないから仕方なく一番近場の【花火ができる公園】に赴いた。
近いといっても電車に乗らなきゃならなくて、正直面倒だけど仕方ない。
夕方出かけて到着したのは夜。計算通りの移動時間に満足しながら、公園の水飲み場で持参した折りたたみバケツに水を入れて置き、近くに着火用のローソクを立てた。
本当だったら彼女と楽しむはずだった花火に、独りで点火する。
バチバチと音を立てて飛ぶ火花。久しぶりに見るその色、火薬のにおい。すべてがノスタルジックで、ちょっと切なくて、ちょっと泣いた。
煙が目に沁みただけだと思いたいけど、風上にいるからその言い訳も通用しない。
一緒に買った彼女の花火はいま、どうなっているだろう。未練なんてないはずなのに、思い出すのは彼女のことばかり。
あ、なんかいい歌詞浮かびそう。メロディなんかも浮かんじゃう。
そうして出来たのがこの曲です、聴いてください。『夜の花火』。
いや、夜に花火するの普通だわ。才能ねー。
風に流れる煙が人型になったりして、それが彼女の意識だったりして、そこからまたなにか始まったり……なんてストーリーの漫画とか描いたら漫画家になれるかなとか、どうでもいいことばかり考えながら、夜空に散る火花を眺める。
キレイだな……。
あいつもキレイだったな……。
思い出の中で美化されているであろう彼女を思い返す。やっぱ残ってんじゃん、未練。
花火が終わる前に彼女が現れるような劇的な展開もなく、袋の中の花火はなくなった。
後片付けをして帰りの電車に乗る途中の道で、彼女に良く似た人を見かけた。隣には子供を抱えた背の高い男性。
他人の空似だとは思うけど……気分は不思議とサッパリしてる。
俺もちゃんと前に進んで幸せになろう。
きっともう来ることはないであろう街並みを眺めながら、電車に揺られ家路についた。
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