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【短編小説】4/17『恐竜革命』

 窓の外、青空の中をプテラノドンが飛んでいる。
 地上では小型の草食竜が群れをなし、専用道路を行進中。
 大昔の映画みたいな光景が現実となったのはいまから数か月前。
 どこかで曲がった時空と時空がくっついて、恐竜時代と合わさった。突如現れた謎の空間からは、図鑑ですら見たことのない原始の生き物がゾロゾロと。
 警察や自衛隊が出動する前にやって来たのは“時空警察”と“時空警備隊”。彼らは恐竜の交通整理をしてから、訳がわからずパニックになりかけていた現代の人々に、あらゆる媒体を使って事情を説明した。
 時空警察が恐竜たちに制御盤を装着。違う時代の生き物を襲わないよう、プログラミングされてるらしい。
 そんな都合のいいことあるかな? ってみんな半信半疑だったしSNSなんかの荒れ具合もひどかったけど、月日が経っても恐竜がらみで事件や事故は起きなかったし、時空警察や時空警備隊は二十四時間体制で守ってくれたしで混乱はじきに収まった。
 曲がった時空を正常にするための工事も始まってるから、安全とわかった現代人は、いつか消えてしまうであろう恐竜の姿を記録したり、学者が目を輝かせ研究したりするようになった。そして恐竜出現地帯は観光地に。出るわ出るわ土産の数々。『恐竜饅頭』に『恐竜煎餅』、『恐竜クッキー』はもちろん、出現地帯マップやぬいぐるみ、プロによる撮影サービスなんかも。
 人間の順応性ってすごい。
 生態系を守るために食事の時間には元の時代に戻る恐竜たち。それも制御盤の効果だとか。
 本来だったらこの世界線に時空警察、時空警備隊が現れる予定はなかったんだけど、緊急事態だし仕方ない、ということでその存在が開示された。
 世の中にはまだまだ知らないことが山ほどあるんだって驚いた。
 かたくなに信じない人、やっぱりあったんだと歓喜する人、特に関心はなく自分の生活が保護されていればそれでいいと考える人、恐竜を使ってなにか商売できないかと画策する人……なんだか色んな思惑が交錯したけど、意志を持って恐竜に接触するのは法律で禁止された。なにやら他の世界線の偉いさんからこの世界線の偉いさんに打診があったらしく、いつもはのらりくらりしてる政府がこのときばかりは超速で恐竜に関する決まりを制定させた。
 たぶんなんらかのリスクがあるんだろうと思う。
 人間界に生きるものたちは恐竜界に生きるものたちに不干渉、というのが新たにできた法律だった。
 動物たちはビビッて威嚇したりするけどそれは想定の範囲内ということでおとがめなし。恐竜もどこ吹く風。多分見えも聞こえもしてないんじゃないかな。
 そうでもしないと捕獲しようとするヤツが現れるだろうから、生態系を守るためには必要だと思う。実際法律を破って恐竜に近づく輩もいたけど、現代の警察、警備隊と時空警察、警備隊がタッグを組んで厳しく取り締まってくれた。
 遠巻きに眺めたり写真撮ったり研究したり、は許されてるから、多少の欲求は満たされて問題ない。
 そんなこんなしてるうちに繋がっちゃった時空のトンネル(のようなもの)の工事は進み、あとはすべての恐竜たちを元の世界に戻して出入口をふさげば元通りになるとニュースで流れた。
 この光景がもうすぐ見られなくなるのは残念だけど、また平和な世界に戻るのならそれでいいか。
 恐竜との別れを惜しんでイベントなんかやっちゃったりして、結局人間って楽しくて自分に害がなきゃなんでもいいんだなって思った。
 別の時空や、それを管理する存在が明らかになってしまったからと、この世界にも他時空への移動技術開発の許可が出た。他の時空の助けを得ずに実現させれば、他の世界に行ってよくなるみたい。
 おいおい、そんな世界が現実になってしまったら、創作物のカテゴリーが変わってしまうじゃないか、と僕ら作家や漫画家、クリエイターたちは頭をかかえた。
 【ファンタジー】が【現実】になってしまうのだから、現実を超える創造力を養わなければ新境地が開拓できない。
 さて、これからどうしたものか。
 なにかしら新たなジャンルを生み出さないと作家生命が終わってしまうぞ、なんて悩みながら、空を行き交う飛行車を眺めていた。

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