【短編小説】8/29『包んで食べたいエトセトラ』
遅い夏休みを取った。結婚してから初めての夏休み。
彼と同じ期間の一週間、せっかくだしお家でまったりしようと決めた。
お休みは明日からなんだけど、今日は彼の帰りが遅いらしい。急なトラブル対応が入ったって。帰宅時間も不明だから夕飯はいらないとのこと。
残念だけど丁度いいから、夏休み中の食材の買い出しと仕込みをしてしまおう。
そして、今日の自分の夕飯は昨日の残り物にしよう。
あ。明日のブランチは前に漫画で読んだ“おかずクレープ”と“おやつクレープ”にしようかな。
一週間分のレシピをおぼろげに考えながら食材をカゴに入れていく。もし在庫と重複しても夏休み中に食べちゃえばいい。
ということで、エコバッグの持ち手が千切れそうなくらい買ってしまった。
帰宅してドア開けて室内入ってすぐに施錠。ドアが開かないことを確認してから、
「はぁー、ただいまー」
誰もいない部屋に言って、重い荷物を廊下におろした。
冷蔵庫前まで持っていかないとならないけど、ちょっと休憩。
途中の自販機で魅力的に見えて買った缶のトマトジュースを開けて、玄関のたたきで靴を履いたまま飲む。
んん、んまい。リコピン足りてなかったらしい。
缶を片手に、もう一度荷物を持つ。
「よくっ、こんなっ、重いのっ、運んだっ、なっ!」
引きずるように運び、冷蔵庫前に到着した。
夏休み中は極力自由に動きたいから、今日の内に下拵えを終わらせたい。
冷凍できるお肉やお野菜は袋に詰めて伸ばしたり、切り分けたりして冷凍庫へ。
常備菜や副菜を作って食品保存容器に詰める。数種類のおかずが入った容器を重ねて冷蔵庫に入れておくと、圧巻だし満足&安心感ある。
任務完了して夕食を済ませた。
結局、彼が帰ってきたのは深夜だった。
消音にしておいたスマホのアラームで起きる。時刻は朝の10時。
彼を起こさないようにベッドを抜け出し、ブランチの支度を始めた。
電子書籍で件の漫画を開き、レシピ通りにクレープ生地と具材を作る。
バター溶かして粉類ふるって液体と混ぜ、ダマができないようにザルで濾して、ボウルにラップをかけ冷蔵庫へ。このまま30分以上寝かせる。
具材はなににしようかなー。
とりあえず材料があって漫画通りに作れるのから……。
と冷蔵庫内を調べたら、ほぼ全部作成可能だった。
薄切りの玉ねぎに塩を振ってしんなりさせたのと缶詰のツナを混ぜたやつ。
野菜数種類を切ったりちぎったりしたやつ。
半熟卵のハムエッグ。
お腹空かせて起きてきそうだから、追加でプルコギも焼く。野菜と合わせたらきっと美味しいぞ。
おかず系はこれくらいで、足りなかったら追加で作ろう。昨日作った常備菜出してもいいかも。
次におやつ系。
チョコと牛乳をレンジにかけてチョコソースを作る。
フルーツ数種類を一口大に切ったものと、ヨーグルトとハチミツを用意。
漫画では液体から作ってたけど、ホイップ済みで絞るだけの生クリームがあるからそれを出そう。
うん、具材できた。
さぁ、寝かせてた生地を焼くぞー。
漫画通りのサイズの調理器具はないので、目分量で適当に……。
お玉ですくった生地を、フッ素加工フライパンに流し入れて、中弱火で焼きつつフライパンを動かし生地を伸ばす。
綺麗に丸くするの、コツがいるな……。
焼けてきたら周りをフライ返しではがしてひっくり返し、焼く。
ほんのり甘い香りがしてきた。
繰り返し焼いていたら手が覚えて綺麗な丸い生地が焼けるようになった。流れ作業楽しい。
生地液が半分くらいになったところで、彼が起きてきた。
「あー、なんかいい匂いする~」
「おはよ」
「おはよう。寝過ごしたわ」
「いいよ別に。もうすぐできるよ」
「なに? わー、クレープじゃん。持ってる漫画に載ってたやつ?」
「そう」
「あー、最高、幸せ、ありがとう」
彼はそう言い残して洗面所へ入っていった。
洗顔と歯磨きを終えた彼が戻ると同時に完成。部屋着のままでクレープブランチを開始する。
しょっぱいのと甘いの、交互に食べたら永遠に食べてしまいそう。危ない。
「んー、美味しい。プルコギ正解」
「野菜と合わせると罪悪感減るね」
「ねー」
「あ、俺きのうアイス買ってきて冷凍庫入れてあるよ」
「なにそれステキ。食べていいの?」
「当たり前でしょ。ちゃんと二人分あるから」
「やったー」
ひとつのカップをふたりで分けて、王道のチョコバナナバニラ生クリームクレープを作って食べる。
「んんー」
「あー、うまぁ」
「幸せ―」
「そういえば今日、花火大会だよね」
「ベランダから見えるかな」
「見えたらキャンプチェア出して、晩酌でもしようか」
「あっ、いいね。そうしよう」
こうして、遅めの夏休みが素敵に開幕したのでした。
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