『メッセージ』(トーベヤンソンの文体を真似てみる)
彼は、ワシントンDCの語学学校に日本のどこか大企業から送られてきているようだった。常識はあるんだけどひらめきがない、というようなコンプレックスを隠さず、隠さないところに好感が持てたわ。自国の国歌を歌うパフォーマンス授業で、彼が私の後ろにいた。「君、君が代、うまいね」と言われて笑ってしまい、その後みんなでアイスクリーム屋に行ったんだけど、彼が私のプラム味を真似した。そしてさらにその後の立ち飲みバーで、本当は僕はプラム味なんか好きじゃないのだと言った。言わんとすることはもちろんわかったのだけど、わからないふりをした。
私はエリスのことがもっと気になっていた。エリスはドイツ人の父と、日本人の母を持つドイツ生まれドイツ育ちの、ぱっと見は日本人ぽいきれいな女の子で、ドイツ語しか話せないという。森鴎外の舞姫に出てくるエリスと同じ名前ではないか。ワシントンには英語を習いにきたらしいけど、なぜ、まず、日本語を覚えようとしないのか理解できなかった。時々、エリスに「OHAYOU」と言ってみたりしたが、普通に英語で返された。何度か試みたのち、彼女は日本が好きではないのだと思い当たった。日本食屋に行こうという集いにもなぜか来なかったし。
クラスにはブラジル人の5人組がいて、彼らはほとんど毎日遅刻した。悪びれず、英語もよく話せる。でもよく聞くと文法はめちゃくちゃ。ランチタイムに、郷土料理を振る舞うイベントがあり、トルティーヤを初めて食べた。薄く切った牛肉にサワークリームがあんなに合うことを初めて知ったわ。もちろんアボカドも。
それとイタリア人が一人、(ご想像の通り、女の子にはすごく甘い)スイス人が一人。スイス人の男の子は、頭をスポーツ刈りのようにして、ヨーロッパでもこんな髪型が?と思わせた。
私たちはサマータイムになると一斉に時計を合わせ、終わればまた戻したりした。
先生は普通のアメリカ人だったけれど、特に何も思い出せない。つまり、英語を習いに行ったといより、遊んでいた感覚が強いのね。顔も、この言い回しを覚えた!という記憶もほとんどないの。ただ、そこにいた友達のことは今でもたまに思い出すの。