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アイスキャンドルの思い出

北海道下川町発祥の氷で作ったランプシェード「アイスキャンドル」。
下川町ではマイナス20度以下にもなる、厳しい冬の寒さを生かし、あちらこちらにアイスキャンドルをともして、もてなしながら冬を楽しんでいる。というのが原点だが、最近は作る家庭が減って、アイスキャンドルをともすのは冬のイベントシーズン、イベント会場がメインになってきた。
アイスキャンドルは全道・全国に広がり、イベントだけで見ると下川町以上に多くのアイスキャンドルをともしている地域もあるが、下川町のアイスキャンドルの魅力は、まちなか全域にともされ、住民の暮らしに根付いているところだと感じている。アイスキャンドルは極寒地域ならどこでも作れるが、文化として根付いているのは、住民主体で地道に取り組んできた下川町ならではと思う。

筆者が下川町のアイスキャンドルを知ったのは、じつは下川町に移住する以前。1997年に偶然住んでいた近所さんから、下川町の存在を知ったが、その冬にこれまた偶然、アイスキャンドルがテレビで全国放送。その様子に感動した。1998年には下川町に移住し、さっそくアイスキャンドルの行事に出店という形で参加した。以来なんらかの形でアイスキャンドルの行事に関わり、数えきれない出会いや思い出がある。

当初、アイスキャンドルを郊外の森林豊かな桜ケ丘公園内の暗闇の中で9日間ともし続ける「アイスキャンドルパーク」があった。この会場に仲間たちと、移動式住居ティピやイグルーなどを作っていたが、その活動の流れの中、自身でモンゴルから移動式住居ゲルを購入。ゲルでアイスキャンドルパークの期間、遊牧喫茶を営んだが、毎年アイスキャンドルを訪れた町内外の方たち同士の触れ合いの場となっていた。期間中地域の方が作ったアイスキャンドルも追加で並べてくれるので、ゲルの周りがアイスキャンドルでにぎやかになっていったのも楽しい思い出となっている。

自前ゲルを使った遊牧喫茶

吹雪の日はアイスキャンドルパークが中止になる。それでも遊牧喫茶は期間中休まず開店させた。平日の吹雪の日でも町外からは人が訪れた。中止を知って残念そうな方がいたが、雪に埋もれたアイスキャンドルを1つ掘り出して、ゲルの中でともしてもてなすと、とても喜んでくれた。アイスキャンドルで最も大切なことは「もてなしの心」であると実感した。

屋内は薪ストーブで温かい。

アイスキャンドルパークの遊牧喫茶は、結婚する以前から妻との交流を深める場にもなっていた。出会ったきっかけは違うが、出会って以来、妻も遊牧喫茶を手伝いに来てくれた。私たちが結婚したとき、このアイスキャンドルパークで、地域の皆さんが結婚セレモニー「アイスキャンドルウエディング」をして祝福してくれた。かけがえのない思い出となった。その後の仕事の都合で、この年が最後の遊牧喫茶となった。

アイスキャンドルウエディングの様子

もちろん毎年、妻とアイスキャンドルづくりは今も楽しんでいる。アイスキャンドルパークが続いていたとき、密かに会場づくりを楽しんでいた時期もある。凍り付いた池の上に波紋を描き、そこにアイスキャンドルを飾ってともしたのも、筆者が作家さんのイメージを引き継いでやったことである。今は自宅庭でひっそりとアイスキャンドルを作って楽しみ、まちなかを歩きながら各家庭のアイスキャンドルを見て楽しんでいる。

アイスキャンドルパーク(桜ケ丘公園)の凍った池の上でともしたアイスキャンドル(ともした後は片付けた) 
今年の自宅庭の手作りアイスキャンドル
筆者の飼うドサンコのハナと一緒に楽しむ手作りアイスキャンドル

アイスキャンドルは下川の住民有志・町づくりアイデア研究会「コロンブスの卵」が、本に書かれていたフィンランドの暮らしからヒントを得て、昭和61年に考案。翌年には町内冬祭り会場外に飾り、12月に上名寄名願寺に飾った風景がNHK「ゆく年、くる年」で紹介され全国デビュー。同63年には、冬祭りがアイスキャンドルフェステバルに改名された。最初は一斗缶(角型金属缶)に水を入れて作ったため、四角のアイスキャンドルで、氷を取り出すのに苦労したのでバケツに変えたらしい。ろうそくは火が長持ちして明るくなるように、背丈が低いものを選び、中の糸を太くするなど試行錯誤を重ね、メーカーに特注し現在のろうそくに。その後イベントはまちなか全体をアイスキャンドルのミュージアムにと「アイスキャンドルミュージアム」に発展。アイスキャンドルは冬の間、下川に来た人たちを各家庭でもてなすためにともそうというのが原点。それを大切に育んでいきたいですね。

下川では、アイスキャンドルの原点に戻ろうと、常に模索が重ねられていて、この2年間、とくにそれを強く感じさせられた。
住民みんなでアイスキャンドルを作って、ともして、共有し合って、楽しむ。まちなかを歩きながら見て、道中地元店でおいしいものを味わって体を温める。そんな日常の延長上にある下川町のアイスキャンドルを、これからも楽しんでいけたらいいなと思う。


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