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閉幕して数秒で『幽霊はここにいる』の亡霊になったオタクの話

1月16日、無事に『幽霊はここにいる』、東京大阪合わせて全34公演が、このご時世に誰一人欠けることないという奇跡を起こして幕を下ろした。

私も神山担の端くれとして東京で2回、大阪で1回観劇させてもらったが、ラストの大阪公演を観劇し、その日のうちに新幹線で地元に帰ってきてからずっと魂をPARCO劇場及び森ノ宮ピロティホールに預けてしまっている。
いわゆる「ロス」というやつだ。

もう図書館で借りてきた戯曲と観劇の感想を無心でまとめたメモ(各公演約6,000字ある)を毎日読み返してはあの舞台で感じたテーマや物語の展開について考えて、毎日深川くんの事を考えてるし毎日キャストさんのあの演技好きだったなぁって思いを馳せるし毎日「アイラブユーレイ」と「戸籍の歌」口ずさんでるし最近ちまちまと進めているポケモンSVのスナバァとピポポタスとワルビル見るだけでしんどい。

それくらいあの戯曲が良かったし、あの舞台が良かったし、あの演出が良かったし、あの戯曲に登場するキャラクター全員が好き。

板の上にぽっかりとできた砂の上で、特に大きな舞台装置もなく始まるこの舞台。シンプルだからこそ、ストーリーを舞台全体を見てより楽しめたと思う。「幽霊」というつかみどころのない対象を砂に見立ててるのかな…と思いながら見ていたのだけどどうだろう。
テーマの一部、特に深川くんが担う役割は、ジャニーさんが好きそうなテーマだな…とも思った。だからジャニーズである神ちゃんがハマったのかなとも思う。私はもうあの戦後のごった返した時勢とそこで起こる泥臭い話と皮肉、というあのバランスにすごくハマって3公演とも食い入るように見てしまった。

まず物語の喜劇要素の大部分を担当しながらこの物語の起点を作っている大庭三吉という男。八嶋さんの元々持つコミカルさとゴリ押しする力があまりにもハマり役すぎて、小柄な体格なのに、この舞台で大き過ぎるほどの存在感を放っていた。畳み掛けるような話術で「幽霊様を生きてる人間よりも尊重したビジネス」がとても“いい“ものに見えてきて、冷静に思い返した時に胸糞悪くなるくらいに暴走するのだけれど、あの場にいると全てが正しいように感じてしまう、あの魅了の仕方が堪らなかった。
彼の「工賃ではなく、買い手が『これにはこれだけ払っていい』と思える価値があるから売れるのだ」という理論は、普段対手間で賃金をもらっているある種の製造業をする私と、アイドルという人間の「目に見えない価値」に魅了されて金を落とす私のどちらにも刺さる、考えさせられる台詞だった。

利己的ではあるものの、今舞台の中で起こっている事実のみを捉えて現実主義的な理論を展開する箱山。
箱山の、大庭の唱えるビジネスには一切乗らず、深川くんの境遇にも一切同情せず提唱する「幽霊はいないのにみんな崇め奉っていて馬鹿だ」という一貫した考え方は、一度舞台で「冷静に思い返す」という瞬間を作ってくれる重要な存在だったように思う。あの冷静な視点でストーリーテーラーのような役割を果たすのかと思ったら、最終的に自分の利益になるようにことが運ぶように、としか考えてなくてめちゃくちゃ笑った。でも誰だってあのくらいのエゴイズムは持っているよな。わかる。

私の推しのミサコさん。ミサコさんの気持ちが一番共感できたことが推したる所以かもしれない。
とても人思いで明るい性格でありながら、実父のビジネスに振り回され、そのビジネスに狂う母親にも振り回され、その上幽霊くんにも深川くんにも振り回される、事象だけ見るとこの舞台の中で1番不憫な役どころ。振り回されて自分や世の中の“普通“が分からなくなったりどうしようもできなくなるもどかしさはまさに現代の私たちにも通じる悩みだと思った。
ただ、その中でも気丈に純粋に、深川くんを通した幽霊くんしか見ていないキャラばかりの中で、「深川啓介」のことを見てくれる良心でもあったなぁ…。深川くんとミサコさんのアフターストーリーが見たいです。

今回あげたキャラクター以外の人も全員がキャラ立ちしててめちゃくちゃ濃ゆくて最高だった。特に鳥居兄弟と市長とまる竹さん。「アイラブユーレイ」のおじちゃんたちは大変可愛くコミカルであったし、自分の権力を誇示したいがためにたった1人の口車にまんまと乗せられて狂って膨らませてしまったブラックビジネスに喰われてしまう権力者、という図はなかなか滑稽。現代の全く信用してない上の人たちを的確に捉えているとも感じていつの時代も変わらないことに虚無感を抱いたりもした。あとモデル嬢がずっと惹かれる存在感を放っていて、気づいたらずっとまりゑさん見ちゃうくらいには引き込まれていた。

そして深川くん。
戦争体験からPTSDを発症し、薬物と戦友の亡霊に縋らざるを得なくなった、幽霊が見える青年。1番飄々としながらも1番根が純粋すぎるが故の闇を抱えていた。彼の人格形成の流れと顛末を見ることで今もどこかで起こっている戦争というものの恐ろしさと悍ましさも感じながら、大庭のビジネス(光)がどんどん膨らんでいくのと対照的にどんどん濃くなる影という立ち回りを見事に表現する役どころだったように思う。幽霊くんのために生きていきたいのか、自我を持ちたいのかどうかの葛藤と欲と自我が膨らんで膨らんでどんどん堕ちていく姿に目が離せなかった。
冒頭の「ゴム靴を新調したいなぁ」とぽやぽやしてた深川くんは2幕からは見る影もなく、最後の本物の深川が出てきた時の、まるで真っ暗闇に閉じ込められて不安でいっぱいな人形のような表情は苦しいし圧巻だった。物語が「今の彼にとっての」一つの救いで締められていて本当に良かった。


こんな難しい役をじっくりじっくり解釈して演じ切ったうちの推しは何者なんだろうか。
稽古前の各種インタビューで「理解できないところが多い」「共通項がない」と言っていたのに、今では「今この時代でやるこの戯曲において、あの役は神山智洋にしかできなかったのでは?」と思うくらい堂々として、素朴で、深川啓介の事を落とし込んでいる演技だったと思う。
特に神山智洋の細かい目の演技、目の表現が深川啓介という男をどんどん舞台の上に「存在」させていた印象を受ける。目のお芝居ができる俳優が大好きな私は、更に演技のお仕事をする俳優・神山智洋を見たくなった。

でもそれ以上ににこうして私達の前に「幽霊」を見せてくれた、あの板の上の時空で周りに翻弄されながらも必死に息をしていた深川啓介という男にもう一度、もう一度会いたい。

1月16日の16時をもって、深川啓介と幽霊と舞台の上にいた面々とはお別れ。あの座組で作られる『幽霊はここにいる』はほぼ確実に見納めだし、神山智洋による深川啓介もほぼ見納めだろう。
神山智洋が演じた深川啓介をはじめとしたキャラクターのその後に思いを馳せながら、あのカンパニーで繰り広げられた喜劇をずっと覚えていたいと思う。


今日の22時に上がったG.O.Diary Vol.341にて「アイドルに戻ります!笑」と締めた神ちゃんの言葉に明確な別れを感じて、駅のホームで涙を堪えるのに必死だった。

100%アイドルとしての神ちゃんおかえりなさい!
そして、さよならあの舞台で生きたみんな。
いつかまた会える日まで。

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