杏レラト(黒人映画研究家)が紹介するBLM(ブラック・ライヴズ・マター)を理解するための5本
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杏レラト(黒人映画研究家)が紹介するBLM(ブラック・ライヴズ・マター)を理解するための5本

 「ブラックカルチャーを探して」の7回目は、アメリカ南部に在住するライターの杏レラトさん。雑誌やウェブなどで主にブラックムービーについて執筆、その豊富な知識と在米20年以上の経験をふまえたテキストは日本の読者にとっても貴重な情報源となっています。ブラック・ライヴズ・マター運動が世界へ広がり、アメリカ映画界でもひと際存在感を放っていた黒人俳優、チャドウィック・ボーズマンが早世するなどシンボリックな出来事が多かった2020年。改めてレラトさんに、BLMを理解するのに役立つ映画を教えていただきました。ちなみに、「もっと知りたい」という方にはレラトさんの著書『ブラックムービーガイド』(スモール出版)をおすすめします。


映画で知るアメリカ南部とBLM


 「僕は見えない人間である」。かつて小説家ラルフ・エリスンが、アメリカ社会で人種差別にあえぐアフリカ系アメリカ人の主人公自らの声をそう表現していたが、私もそう感じることがある。私が住むアメリカ南部には、日本人は少ない。たまにお店で店員に挨拶もされず、「あれ? 見えなかったのかな?」と思えば、後から入ってきた人には挨拶しているのを見かけて、そういうことかと思う時がある。私は西部などの他のアメリカの地域に在住していたこともあるが、南部はその他の地域とは全く違い、白人とアフリカ系アメリカ人がほとんどなのだと思い知らされる。
 白人とアフリカ系アメリカ人、彼らを巡る歴史はとても長く、アメリカが国となる前から彼らの歴史は存在している。アメリカを2つに分けた南北戦争、そして奴隷から解放されたはずのアフリカ系アメリカ人を苦しめた南部に存在していたジム・クロウ法(*1)、そしてそれらを撲滅するために闘った公民権運動、そして昨今のブラック・ライヴズ・マター運動……、全てではないが多くが南部で起きたことだ。そしてそれらのことを知るには映画が一番手っ取り早い。全ての映画が史実を忠実に伝えている訳ではないが、その背景や人々の心情をなるべく分かりやすく描いている。そんな南部を映画を通じて、そして私が肌で感じたことを通じて知ってもらえればと思う。

『ルーツ』(1977年)

 アフリカ系アメリカ人がなぜアメリカに存在しているのかを知るには、やはり『ルーツ』が一番分かりやすい。そしていきなり映画ではなく、TVミニシリーズなのは申し訳ないが、この作品は外せない。この番組が放送された当時、街から人が消えたと言われているほど全米が熱狂したTVミニシリーズだ。そして、彼らはアフリカから「やってきた」のではなく、「無理やり連れてこられた」のが分かる。原作は、『マルコムX自伝』(1965年)で知られるアレックス・ヘイリー。彼が祖母から「クンタ・キンテ、マンディンカの勇敢な戦士! コはバイオリン、カンビィ・ボロンゴは川の意味というのを娘のキジーに教えた。そのキジーは息子のチキン・ジョージに教えた」という、映画のセリフにもなっているこの言葉を聞いて、自分のルーツ(祖先)を調べて書き上げた作品だ。西アフリカのガンビアでマンディンガの戦士だった主人公、クンタ・キンテは、アメリカに連れてこられ、ヴァージニア州のプランテーション(大農園)で奴隷として働かさせられ、その後裔たちが時代とともに奴隷から解放され、それでも南部の「アフリカ系アメリカ人の血が一滴でも入っていればアフリカ系アメリカ人」や「分離すれど平等」というジム・クロウ法で生活が脅かされるが、ついには作家にまで大成するアレックス・ヘイリーまで物語が紡がれていく。
 正直、アレックス・ヘイリーは幸運だ。私の知人であるアフリカ系アメリカ人たちのほとんどが、自分のルーツを知らず、彼らはアフリカのどの国が母国なのかを知らない。最近では、アフリカからやってくる移民も多いし、東海岸には西インド諸島出身者も多いが、南部のアフリカ系アメリカ人は自分のルーツを知らない人が多い。私の場合、アメリカでは、アジア人とまとめられることがあるが、自らは日本人と答えている。だが彼らの場合、母国を知らないので、アフリカ系アメリカ人なのだ。

『Go Down, Death!(日本未公開)』(1945年)


 これまた日本未公開なので、観る術がないと思うだろう。同じようなテーマ作品『ハレルヤ』(1926年)や『緑の牧場』(1936年)、そして南部と言えば『風と共に去りぬ』(1939年)などの有名作品もあり、それらは日本公開もされていて比較的に手に取りやすい作品だが、知って欲しい作品はこちらの『Go Down, Death!』である。安価DVDが発売されているので、輸入すれば比較的安く観ることができる。まずタイトルも作品テーマも、著名なアフリカ系アメリカ人作家で活動家のジェームズ・ウェルドン・ジョンソンが、当時のアフリカ系アメリカ人牧師の説教を記録すべく幾つかの詩にしており、その詩の1つが本作となっている。
 南部は「バイブルベルト」とも呼ばれ、キリスト教に熱心な地域であることはよく知られているが、それを裏付けるように私が南部にきて一番ビックリしたのが教会の数、そして教会の建物が地域で一番立派だということだ。しかし、アフリカ系アメリカ人と白人の居住地区が分かれているように、教会も分かれているように見える。実際にアフリカ系アメリカ人が通う教会には白人信者はあまりいない。だが最近ではメガチャーチなる巨大な教会も多く見られ、そのような教会には多種の人種の人たちが通っている。とはいえ、本作が作られた40年代はしっかりと人種で分かれていた時代であり、その頃の様子が伺える。
 ジョンソンの詩は、キャロラインという女性の死について、「泣くな、彼女はイエスの胸で眠っているのだ」と慰めている。本作でもキャロラインという女性の死が描かれ、真面目で神の教えに忠実な牧師が救われ、反道徳的で牧師を欺こうとする男が地獄に落ちる。本作の物語を通じて、なぜ彼らが教会に熱心なのかが分かる。本作は、南部生まれのアフリカ系アメリカ人俳優スペンサー・ウィリアムズの監督作品だ。彼の『The Blood of Jesus』(1941年)は、アメリカ国立フィルム登録簿(*2)入りしている作品である。先述した作品よりテクニカルな部分で見劣りするだろう。しかし内容は色褪せず、観た者の心に深く刻まれることになる。

『スクール・デイズ』(1988年)


 スパイク・リー作品。ニューヨーク出身として知られているスパイク・リーだが、実は生まれがジョージア州アトランタという『風と共に去りぬ』の舞台で知られている土地である(幼少時にニューヨークに引っ越している)。スパイク・リーの祖母がアトランタに住んでおり、小さい頃には夏に訪れていた。そして大学は、アトランタの名門モアハウス大学に入る。キング牧師の母校であり、父でスパイク・リー作品のコンポーザーでもあるビル・リーの母校でもある。そして、スパイク・リーの母はモアハウス大と隣どうしである女子大スペルマン大学を卒業している。
 そんなスパイク・リーと縁とゆかりのあるモアハウス大とスペルマン大をモデルにしたのがこの『スクール・デイズ』という作品だ。モアハウス大での撮影中に大学側とトラブルになったため、本作では架空の大学、ミッション大が舞台になっている。本作では、アフリカ系アメリカ人の間にある断絶、肌の色の違いで起きること、フラタニティとソロリティ(*3)というグリーク組織、大学内でのヒエラルキーなど、今まで白人の作り手のみによる映画では描かれなかったテーマが描かれている。テーマを並べただけでも、本作がその後の作品に大きな影響を与えたことが分かってもらえるはずだ。
 本作ではこの時代の南部ぽさが垣間見られるが、何と言っても印象的なのは、ケンタッキー・フライド・チキンで地元のチンピラ風の若者たち(その1人がサミュエル・L・ジャクソン)と主人公ダップ(ローレンス・フィッシュバーン)が言い争いになり、ダップが地元民に「お前らは、ニ✖ー(蔑視語のため文字を伏せた)なんかじゃない」と諭す有名なシーンだ。地元民はずっと地元にいるのに、大学でこの地にやってきた人たちに仕事が奪われていると嘆くと、ダップはそう言ってやり返し、地元民たちが言葉をなくすのだ。また、今では「ポパイ’ズ(英:Popeyes Louisiana Kitchen)」や「ボージャングルス(英:Bojangles)」などの南部発祥のフライド・チキンが全米でチェーン化しているが、この時代はまだ「ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)」だけがチェーン化しており、一強の時代であった。南部にはKFCフランチャイズ店が多く、各店で砂肝やレバーのフライなど独自メニューもあったりして地元になじんているお店も多いので、南部に行く際には、そういうお店を探していくのも面白いだろう。我が州にも、本作と同じく大学がある街にあるフランチャイズKFC店がある。その店の砂肝のフライが過去で一番美味しい砂肝であった。

『グローリー/明日への行進』(2014年)


 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師のアラバマ州セルマからモントゴメリー行進を描いた作品である。南部といえば、キング牧師である。キング牧師の功績を称える記念碑や博物館や通りの名前などが南部各地で見られるはずである。バプティストの牧師であったキング牧師がなぜに全国化のリーダーとなりえたのか? それは、先述した『Go Down, Death!』にヒントがある。
 南部では牧師は絶大な信頼を集めており、その発言力や影響力は大きい。『Go Down, Death!』の主人公の牧師がそうだったように、清廉潔白な牧師が好まれる。本作では、清廉潔白というよりも、悩み苦しんだ人間臭いキング牧師が描かれており、彼も同じ人間だったと思わせる作品だ。キング牧師は神格化されて描かれることが多いので、とても興味深いだろう。そして、私は本作を南部の映画館で観たのだが、随所で観客たちの「神に感謝!」の声や拍手などのレスポンスが館内にこだまし、映画館が教会と化した。南部の人たちの気持ちに触れたことで一体化でき、とても良い経験をさせてもらった。
 本作で描かれたセルマからモントゴメリーの行進は、アラバマ州バーミングハムで起きた4人のアフリカ系アメリカ人少女が、白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(K.K.K.)によって殺された教会爆破事件が発端となっている。そして、映画でも描かれたようにこの抗議運動中にジミー・リー・ジャクソン(ラキース・スタンフィールド)が警官によって殺されている。ブラック・ライヴズ・マターは無実のトレイヴォン・マーティンが自警団の男に殺された後、2013年にできた言葉だが、本作が描いた1965年、いやそれよりもっと前からアフリカ系アメリカ人の死の尊厳を問う闘いはあったのである。
 そして南部に住み、キング牧師を通して感じたことの1つが、心の底から友と呼べる白人もいる、ということだ。南部の白人といえば、白人至上主義団体、クー・クラックス・クランなどを始めた人たちもいるが、逆にキング牧師の公民権運動と共闘した白人の人たちもいる。私がお店の雑誌コーナーにあったキング牧師特集の雑誌を買うかどうか迷い、立ち読みしていた時、白人の中年男性に「僕は小さい頃にワシントン大行進に母と参加したんだ。誇りでもある」と話しかけられたことがある。実際に、アフリカ系アメリカ人となじみ、仲が良い白人を多く見かけるのも南部の方が多い。キング牧師は南部で生まれ生活したからこそ、白人との隔離ではなく共存を選んだのではないかと、ふと思うこともある。

『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年)

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 ブラック・ライヴズ・マター運動の1つが、『グローリー/明日への行進』で描いたようにアフリカ系アメリカ人の死の尊厳を問うものだが、もう1つの闘いは司法での不平等さへの訴えだろう。アフリカ系アメリカ人が被害者であった場合、トレイヴォン・マーティン事件のようになぜか加害者が無罪になるケースがある。逆にアフリカ系アメリカ人が加害者だった場合には、罪が重くなるケースが多い。そしてアフリカ系アメリカ人が無実であるにもかかわらず、有罪になり冤罪で刑務所暮らしをしているケースも多かったりする。そういった問題に立ち上がったのが、本作の主人公となるブライアン・スティーブンソンだ。スティーブンソン役を、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)や『ブラックパンサー』(2018年)などで知名度抜群のマイケル・B・ジョーダンが演じたので、無事に日本公開もされた作品だ。本作では、ハーバード大の法律科を出たスティーブンソンが、深南部アラバマ州にやって来て、ウォルター・マクミリアン(ジェイミー・フォックス)という囚人と出会い、マクミリアンの無実を信じるスティーブンソンが困難に立ち向かっていく様子を描いている。史実に基づいて製作された作品である。同じような冤罪が描かれた作品は過去にも存在する。エディ・マーフィとマーティン・ローレンスが共演した『エディ&マーティンの逃走人生』(1999年)も、冤罪の2人がミシシッピ州で65年も囚人となっていたことを描いているし、『グリーンマイル』(1999年)のジョン・コーフィ(マイケル・クラーク・ダンカン)だって冤罪だった。『アラバマ物語』(1962年)のトム・ロビンソン(ブロック・ピーターズ)も冤罪だった。この3作はいずれもフィクションだが、本作で描かれたブライアン・スティーブンソンは、現実で多くの裁判で冤罪になるところのアフリカ系アメリカ人たちを救ったリアル・ヒーローなのだ。
 私の周りには幸いにもこのような経験をした者はいない。しかし、目につかぬように警察には警戒しているし、子どもたちには警察官たちには口答えをせずに従うことを教えている。もちろんそれを教えることに憤りを感じる。他のアフリカ系アメリカ人の親たちも同じように憤りを感じていることだろう。ブラック・ライヴズ・マターの怒りを南部の地で肌で感じずにはいられない。

 「明日は明日の風が吹く」ーー 『風と共に去りぬ』の主人公の言葉だ。それは、彼ら白人には明日は明日の風が吹くのだろうが、アフリカ系アメリカ人にとっては明日は風が吹くことすら分からず不安なのだ。この地に住んで知ったことだ。

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『黒い司法  0%からの奇跡』ダウンロード販売中、デジタルレンタル中
ブルーレイ&DVDセット(2枚組)¥4,980(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
Just Mercy c 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved

*1 ジム・クロウ法:1876年から1964年にかけて存在した、人種差別的内容を含むアメリカ合衆国南部諸州の州法の総称。一般公共施設の、黒人の利用を禁止したり、制限した法律のこと。
*2 アメリカ国立フィルム登録簿:アメリカ合衆国の「国立フィルム保存委員会」が半永久的な保存を推奨している映画・動画作品のリストのこと。
*3 フラタニティとソロリティ:社交団体や慈善団体を指す場合に使われる単語で、アメリカやカナダなどでは一般的に、大学内の男子寮(フラタニティ)と女子寮(ソロリティ)や学生が所属する社交団体のことを意味する。

文:レラト杏

著者プロフィール
レラト(あんずれらと):映画ライター、黒人映画歴史家、Webサイト『SOUL * BLACK MOVIE *』管理人。雑誌『映画秘宝』(双葉社)をはじめ、劇場用パンフレットやWebサイトに寄稿し、日本では紹介されることの少ないブラックムービーのレビューや、アフリカ系アメリカ人俳優とコメディアンの周知活動を行っている。現在はアメリカ合衆国南部に在住。著書に『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)がある。Twitter:@LeratoAnzjp

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『ブラックムービーガイド』
杏レラト著
スモール出版 2018年

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