静かな帰省①


8月下旬、1週間ほど隣県の実家に帰省をした。いつもなら自分で車で帰るのだが、今回はそれができない。

今回の帰省は、私の無事を周りの人に見せて回る計画もあったため、アパートまで両親が迎えに来てくれた。車の中には、ガーグルベースンと大量の冷たい飲み物があった。
退院説明の時に『水分をたくさん摂ること!』と先生から念を押されていたからだ。

アパートから実家までおよそ2時間。普段の私なら、人の運転する車に2時間乗っていると酔うのだが、今回は平気だった。
そんなことより、症状が出た時から退院するまで、これを話し始めると止まらないのだ。


面会が出来なかったこと、入院してから私の集中力が散漫になりLINEが長く続けられなかったこと、夫も仕事と私のお世話が精一杯だったこと。全てが重なったせいで、両親は経緯をほぼ何も知らなかった。

知っていたことは、
・職場で倒れて救急車で運ばれた
・頭のCTで影が見つかったから入院になった
・説明を聞きに病院へ行ったら、脳梗塞で手術と言われたが、目の前には普通に座って会話のできる娘がいる
・手術が無事成功して麻酔から覚める娘を確認
・退院して、夫婦2人でアパートに帰った

だけ。


どんな頭痛で、どんな痙攣発作だったか。
救急車の中ではどんな会話があったのか。
手術するまでどんな入院生活を送っていたのか。
手術した日の夜はどんな痛みがあったのか。
大部屋に移るまでにどんな出来事があったのか。
どんなリハビリをしたのか。
どんなご飯を食べていたのか。

退院後は夫婦2人でどんな療養生活をしていたのか。


私は興奮状態で2時間これらのことを喋り倒した。

人とこんなに長い時間話すことは久々だから、全くまとまっていなくて、話しが飛び飛びだったと思う。それでも話し足りなかった。

道中、突然母から「ウィッグ買っちゃった」と言われた。聞けば、私に渡すために、普段使い用のショートボブのフルウィッグと、専用のコームを買っていたらしい。
私は、コロナだし1人で出かけられないし、帽子も用意してあるから、本当に必要になったら自分で買う、と言ってあった。それでもどうにも可哀想だと思ったのか、黙って用意していたのだ。

今後、このウィッグは2回ほどしか出番を迎えず、ビニール袋を被せられてリビングに放置されることになる。


実家に帰る前に、入院中ウィッグの相談をした叔母夫婦の家にお邪魔した。

ウィッグ用コームは叔母が買ってくれたと言うので、お礼を言い、入院中の話をした。終始、痛々しい、可哀想というように眉間にシワを寄せて話を聞いてくれた。

途中、この大きい傷口は、これから毛が生えるのか?という話題になり、虫眼鏡でよーく傷口を観察してもらった。傷跡ど真ん中には見込みは無さそうだが、すぐ傍には毛穴らしき黒い点があるそうだ。
これが全部毛根だとしたら、この禿げている部分は綺麗に隠れる!という結論に至った。


夕方、やっと自宅に帰り、飼っているパピヨンとの再会を激しいハイテンションで喜び、1年半ぶりに実家での夕食を食べた。

私の実家の夕食は毎度毎度とにかく大量。昔は余裕で食べられていたが、今の私にはもう間食できるはずがなかった。


食後、シャワーを浴びていると、母が何度も何度も生存確認をしてきた。正直、うるさい。


今回の帰省はちょうど1週間で、中学時代の友人、高校時代の友人、祖母など、色々と会う予定がある。
コロナの時代だから、大人数ではなくなるべく1人ずつ。楽しみで仕方がなかった。






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