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開いている襖

近所の奥さんであるAさんが来てくれたことは、初めてのことで嬉しい。
私が茶器を用意しようとしていると、留守の間のことを話してくれる。
「なんか変な音がするんだよね」
ああ、と私は頷きながら、茶器を探す。この家の変な音やらラップ音やらはもう慣れっこだ。
来客用の茶器はここのハズだけど。
あった。それを取り出す。
「それで、なんだろうと思って寝てみたら、窓に手形が沢山あるの」
え?手形?にしても寝るって・・・ああ、和室か。
「どこにあるんです?」
「消えた」
「消えた?」
「そう。横になって寝てみてわかったけど、天井にもあるんだよ、びっしり」
ええーーー?!なにこの展開?
湯を沸かして、さあ、お茶をと思ったが、出したはずの茶器がない。
最近、置いた物をどこに置いたか忘れる物忘れが多いから。
でも、来客中にそれを発揮するなんて、自分、マジでダメすぎる。
「手だけじゃないの。足跡も。きっと子供の。でも気付いたらないの」
それどころじゃない。お茶のセットがなくなってる。
あたふたする私をよそに、奥さんも、必死で喋っている。
と、窓越しの明るい外の景色の中、裏の家の奥さんであるBさんがやってくるのも見えた。その家の子供達と、親類らしい数人の子供達もいて、大勢がこちらに向かっていた。
Bさんは私の苦手なタイプだったので、イヤだなあと思ったが、Aさんと仲が良いのは知っているので、無碍にもできない。居間の大きな開口部から笑顔で入ってくるのを迎え入れる。子供達も入ってきた。お菓子はあるから大丈夫。でも、マジで茶器がどっかいった!!!
「しかもね。さっきまで閉まっていた襖がちょっとあいてるの」
襖は和室にしかない。思い浮かべたが、いつもきちんと閉じているハズだ。でも、まあ、あそこならあいていることもあるかもなあ。
子供達は、家中に散ってあちこちで遊んでいる。Bさんも適当に座って子供とこちらを交互に見ている感じだ。
「そしたら、なんか、その隙間に動いているものがあって」
「え?」
「怖くて主人を呼んだの」
だから、旦那さんがいるのか。
Aさんのご主人が、窓の付近を見ている後ろ姿を見る。
「そしたら、へんな人形のパーツみたいのが出てきて」
「え?そんなもの、ないハズ。布団だけですよ」
襖は、我が家では押し入れにしかない。そこには、布団などの、来客用寝具しか置いていないのだ。人形なんてあるわけがない。
「何か動いたし、へんなものはあるし、これはおかしいと思って警察を呼んだの」
「は?ちょっと、待ってください」
笑顔のまま、私はさすがに驚いた。こだわらない性格だし、誰が来ても、家が賑わえばいいという方針だけど、私の留守中に勝手に警察呼ぶなんて。でも呼んでしまったものは仕方ない。
「警察はなんて言ったんです?」
「誰かが侵入した形跡はないけど、用心はしてくださいって」
それはそうだろう。探していた茶器を諦めて、和室を確認しに行った。
昼間の明るさの中ではあるが、若干、怖い感じもする。
部屋の南東に仏壇があって、綺麗に花で飾り付けてあった。
おかしい。
我が家には、奥の部屋に神棚はあるが、仏壇はない。
襖の方を見る。
Aさんが言ったように、20センチくらい開いている。
「なんでまた開いてる・・・?」
襖に近寄ったとき、明らかに押し入れの下段に何かいるのが見えた。



と、ここで目が覚めました。
夢っていうのは荒唐無稽なのに、どうしてその中で必死に頑張ってしまうんでしょう?
こんな不気味なストーリーの中、私がなにより頑張ったのは茶器探しです。
しかも、景色が穏やかで、今は冬ですが、夢では、初夏のさわやかな緑の季節。明るい陽射しが降り注ぎ、みんな陽光の中、動いていました。
へんなの。


終わり


現在、「自分事典」を作成中です。生きるのに役立つ本にしたいと思っています。サポートはそのための費用に充てたいと思います。よろしくお願いいたします。