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枯れ落ちた瞼


枯れ落ちた瞼
左手の甲に乗せて
生前にしておきたかったこと
生前にしておくべきだったこと
今さら、今さら

口にすれば
三行で事足りること
言い淀んでるうちに迎えたその日

示し合わせたような
北北西の風に合わせ
小刻みにゆれる木漏れ日が縁取る
数々の慈しみに満ちた温もり

セピアに色づいてしまう前に
モノクロに染まっていく前に
目の前にはもういない
目の前にはもう返ってこない
だけど
何か形にして受け継いでおかねば

回る針が速度から解放されて
回る足が強度から解放されて
理想郷にも等しい未来
夢見続けているのは
その愚直な意志の名残でしょうか

諦めきれない茜の短冊
拭いきれない茜の星屑
あの三行が
この胸の中で行き場を失くしたまま
どっぷりと深みを増していく

春が、夏が、秋が、冬が
当たり前に香らせて今年もまた通りすぎて
晴れが、雨が、曇りが、雪が
当たり前にくすぐって今年もまた通りすぎて

思い出したように
左手の甲の瞼をそっと舐めれば大層な雲は
風に飛ばされながら
細かく千切れて
告別を象徴する切り画となった


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【 初出 】

詩のブログ
『 橙に包まれた浅い青 』

2021年07月21日
「 枯れ落ちた瞼 」


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