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《こまじんの掘り出し物》草野心平の蛙の詩

カエルの本

大阪天満宮では、毎年この時期に「天神さんの古本まつり」が開かれます。今年は第25回で、天神さんにとって記念すべき数字です。というのは、天神さんこと菅原道真の誕生日が6月25日で、亡くなったのが2月25日。このことから、25日は天神さんの縁日になっています。初天神は1月25日、終い天神は12月25日です。さて第25回目の「天神さんの古本まつり」は18日(火)までということですが、お天気が心配ですね。

本棚を見ていて、ふと「日本のカエル」という背表紙が目につきました。山と渓谷社発行のハンディ図鑑です。数年前に「天神さんの古本まつり」で手に入れた本で、外カバーがなくて、表紙には「FROGS AND TOADS OF JAPAN+SALAMANDER」 と書かれています。日本には48種のカエルが生息するそうですが、ヒキガエルもカエルの一種としてその中にはいります。ところが英語では、「FROG」(カエル)と「TOAD」(ヒキガエル)を分けるのですね。初めて知りました。外カバーはネットで調べました。

ちなみに、世界中には約7000種ものカエルがいて、両生類の90パーセントはカエルだとか。熱帯には、見事な色彩や模様を持つ毒ガエルがいますね。それに比べると、日本にいるカエルは全体的に地味ですが、かわいいカエルも多いです。小学2年生の私の孫は、カエルが大好きです。

蛙の詩人・草野心平

夏の間は、田圃や池で見かけたり鳴き声を聞いたりしたカエルですが、朝晩めっきり涼しくなった今、カエルたちはどうしているんでしょうね。
カエルといえば、草野心平の詩を思い出します。中学生の時、草野心平のこんな詩が教科書に出てきました。二匹のカエルの会話です。おもしろいので、暗唱しました。

秋の夜の会話

さむいね
ああさむいね
虫がないてるね
ああ虫がないてるね
もうすぐ土の中だね
土の中はいやだね
痩せたね
君もずゐぶん痩せたね
どこがこんなに切ないんだらうね
腹だらうかね
腹とつたら死ぬだらうね
死にたくはないね
さむいね
ああ虫がないてるね

この詩は、昭和3年(1928)に出版された草野心平の第一詩集『第百階級』の冒頭に置かれた、記念すべき詩です。
秋が深まった夜、冬眠寸前の、腹を空かせたカエルたちのせつない会話ですね。中学生の私は、「腹とつたら死ぬだらうね」という詩句にドキッとしました。でも、虫の声に耳を傾ける余裕が、まだこのカエルたちには残っているのだと思うと、やがて無事に冬眠に入るのだろうと想像しました。

冬眠直前のこんな詩も有名ですね。

おれも眠らう 

るるり。
  りりり。
るるり。
  りりり。
るるり。
  りりり。
るるり。
るるり。
  りりり。
るるり。
るるり。
るるり。
  りりり。

これも『第百階級』に収められている詩です。
さて、この詩はどう読めばいいのでしょうか? 何度も読み返しているうちに、わかりましたよ!

季節は秋の終わり頃。二匹のカエルが互いに鳴きあっています。
「るるり」と鳴くのはオスの蛙。「りりり」は多分メスでしょう。
初めのうちは、「るるり」「りりり」とリズムよく鳴き声が交わされています。しかし、そのうち「りりり」という声のリズムが崩れます。メスのカエルに眠気が襲ってきたのです。そろそろ冬眠の季節なのでしょう。
オスのカエルは、「るるり」「るるり」と呼びかけますが、「りりり」の声はさらに遠ざかっていきます。
そして、ついにその声は完全に途切れてしまいました。今まで鳴いていたオスのカエルも鳴くのをやめ、彼は心の中で思います。
「おれも眠らう」

たぶん、こんな感じでしょう。
しかし、「るるり」と「りりり」だけで詩になってしまうなんて、すごいですね。

こうしてカエルたちは、次の春の訪れまで静かな眠りに入ります。
もう一編、「冬眠」という、たぶん世界一短い詩です。

冬眠
        ●

点が一つ打たれただけの詩。黙したまま、土の中に静かに確かに存在しています。

草野心平、今日はここまで。


トップ画像は、「Shizuku Compass:雫とコンパス」さんのイラストです。


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