アジア紀行~ベトナム・サパ⑤~
ドラゴン・マウンテン
カットカット村へ行った日の翌日。
朝目覚めると、ふくらはぎが痛い。慣れない山道を歩いたせいだろう。サパでは、町から外へ出るということは、すなわち山道を歩くことである。
朝食をすませてロビーに戻ると、フロントの女性から、「今日はどこへ行くの?」と尋ねられた。特に決めていなかったので、「どこかいい所ない?」と聞き返すと、地図を広げて、「じゃあ、ドラゴン・マウンテンがいい」とすすめられる。サパの町からそれほど遠くはなく、景色がいいそうだ。
教えられたとおり、教会の横の道を行くと、上りの階段が続いている。
入り口のゲートが見え、ベトナム語で「Núi Hàm Rồng」と書かれている。
「Núi」は山だというから、「ハムロン山」かな。
ホテルの人が「ドラゴン・マウンテン」と呼んでいた「ドラゴン」は「Rồng」だろう。
チケット売り場で7万ドンを支払う。数日前に日本円を両替した際のレートが、1万円≒200万ドンだったから、350円ぐらいだ。
ここには、「HAMRONG SAPA MOUNTAIN」と書いてある。
山に続く階段をのぼる。階段の両側には、土産物や、山で採集したいろんなものを乾燥させたものなどを売る店が続く。
店が途切れるところにチェックポイントがあり、ここでチケットを見せて、いよいよ山道が始まった。
すれ違う人の足下を見ると、サンダル履きが多い。登山というにはほど遠く、気楽なハイキングといった風情だ。しばらく行くと、子供の遊び場のような場所に出た。
ここまでわずか20分ほどだから、サンダル履きでも問題なさそうだ。
さらにもう少し登ると、開けた場所に大きく「SaPa」の文字が植栽でつくられていた。
振り返ると、青空と白い雲、遠くの山、その下に小さくサパの町も見える。
道はよく整備されていて歩きやすい。チケット売り場でもらった地図はかなりアバウトだが、迷うことはなさそうだ。
ここから少しずつ山の雰囲気が増していく。
巨岩の間を潜るのもおもしろい。
いつの間にか、完全に山の中に入っている。周囲を見渡すと、どちらの方角も山、山、山。
山の西側は、昨日行ったカットカット村の方角で、谷底には森や田圃や道が、まるで模型のように見える。
上り道が続くと、やはり足が重い。いつの間にか、すっかり汗だくになっている。しかし山道に咲く小さな花々が、そんな疲れを忘れさせてくれる。
1時間半ほど歩いたところに、見晴らしのいい小さな休憩所があった。この辺りまで来ると、ほとんど人と出会うことがない。
いつまでものんびりしていたくなる場所だったが、汗もひいたので、再び出発する。
どこが頂上かわからないまま、いつの間にか道が下りになった。木につながれた牛がこちらを向いている。人の姿は見えない。
下り道はやがて、もと来た道と合流した。ルートは、ハムロン山をぐるっと回って、もとのサパの町に戻るようになっているのだ。
サパの町が前方に見えてきた。懐かしいような気になる。ゆっくりと、山歩きの余韻を楽しむように下っていく。
サパの町に到着。往復で約3時間の楽しいハイキングだった。
再びサパの町
ホテルまで戻ろうかと思ったが、昼もすでに過ぎているので、何か食べておくことにする。
「BAKERY」「COFFEE HOUSE」という看板がある店に入る。
クロワッサン・サンドとフルーツ・ミルクシェイクを注文する。
合わせて75,000ドン。
見るからに物足りなさそうな感じがする。クロワッサン・サンドはまずまずだったが、シェイクはぬるくて大失敗だった。
サパに来て3日目だが、食事に関してはあまり期待しないほうがよさそうだ。
ホテルにもどってシャワーを浴び、着替えて、やっと落ち着く。
予定ではサパに4泊することになっている。すでに半分が過ぎ、自由に動けるのは明日と明後日の半日だけだ。足をのばせば別の少数民族の村もあるのだが、今回は行けそうにない。
窓から外を見ると、谷の向こうの山々が美しい。
夕方、もう一度町に出る。市場の前で、偶然、昨日カットカット村を案内してくれた黒モン族のチーちゃんと出会う。にっこり笑って挨拶をするが、言葉が通じないのがもどかしい。
別れたあと、町中をブラブラする。道端で小鳥を売っている人がいた。竹で上手に籠も編んでいる。小鳥よりも籠のほうに気持ちが惹かれる。
いい匂いがすると思ったら、店の前で肉を焼いている。扇風機の風が匂いを運んでくる。
サパの日没は早い。山の向こうに太陽が隠れると、あっという間にあたりは暗くなる。ところどころにイルミネーションが灯る。
空腹感はないが、フォーを食べたくなる。
店頭の「PHỞ」という文字が目に入ったので、この店にしよう。まだ客はあまりいない。
テーブルの上に置いてあるのは何だろう。
店の表には「Phở Gà」と書いてある。鶏ガラのスープに鶏肉を合わせたものだが、鶏肉ではなく、牛肉のフォーを注文する。値段は35,000ドン。170円ほどだ。昼のクロワッサン・サンドよりも安い。
いかにも旧式の厨房が見える。
注文した「フォー・ボー」ができあがった。牛肉がたっぷりと入っているが、ちょっとかたい。スープは美味しかった。
プラムを2個買って、ホテルに持ち帰る。町外れの道は暗い。昼間の暑さがうそのようだ。
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