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アジア紀行~ベトナム・サパ⑦~

サパ最終日の朝

夜中に目を覚ますと、風の音が聞こえる。昨日の雨はまだ降り止まず、おまけに風まで加わって嵐になっている。窓の外は真っ暗で何も見えない。
天気だけは、いやほかにもいろいろあるが、思い通りにならないものだから、不安を感じながら再び浅い眠りにつく。

朝目覚めて、いちばんに窓の外を見る。雨は小止みになっている。この後、天候が回復するのかどうかはわからないが、外出できないほどではない。
白い雲が谷を這っていく。上昇気流に乗って、雲の頭が持ち上がる。まるで白い龍のようだ。

9時、ホテルのレストランで遅めの朝食。テラスに置かれているテーブルは夜の雨で濡れている。

空は雲で覆われているが、それでも少しずつ明るくなっていく。雨はいつの間にか上がっている。
テラスから外をのぞくと、やはり雨上がりを確かめるような子どもの姿が見える。


雨上がりの村へ

予定では、今日の夜行列車でハノイに戻ることになっている。夕方までの時間を大事に使いたい。
フロントで、チェックアウト・タイムを夕方まで延ばしてもらえるようお願いする。ハノイのホテルと違って、延長料金もなく、おおらかだ。
雨の心配はもうなさそうだが、用心して雨具を用意をしてサパの町に出る。
坂道を下りていくと、黒モン族の人たちが数人の観光客の周りに集まっている。彼らも雨が止むのを待ち望んでいたのだろう。

いいにおいも漂ってくる。店の前で串刺しにしたブタとトリを焼いている。ヤカンに入った「タレ」をつけて焼くのだろう。表面が飴色にツヤツヤとしている。

町の中心の通りには観光客目当ての店が並ぶ。もちろん地元の人も来るだろうが、黒モン族の人たちが入ることはない。

やがて店は途切れ、民家だけになる。

町の外れにある狭い急な階段を下りると、一気に田舎の風景に変貌する。

田畑や谷の向こうの山々がぐっと近づいてくる。雲が多いけれど雨が止んでよかった!

振り向くと、サパの町が上の方に見える。

倉庫のような小屋の入口に一人の男性がしゃがんでいる。竹製の長いパイプでタバコをすっていた。近くに寄って見せてもらう。すってみるかとすすめられたが、お断りした。今から思えば、やってみるべきだったかな。

写真を撮らせてもらう。建物の中からさらに4人も出てきたのでビックリ。5人で記念撮影をする。iPadで写してみんなに見せると、笑顔がこぼれる。

サパの町から道を下ってきたが、この先がどこに続くのかわからない。青年たちに「この道を行くとどこ?」と尋ねると、「ラオチャイ(Lao Chai)」と教えてくれる。村までどれくらいの距離があるのだろうか。
彼らと別れて、車の通る道に出る。後ろから来たバイクが追い抜いていく。たいてい黒モン族の女性を後ろに乗せて男性が運転している。ちょうど昼時なので、村に帰るのだろう。歩いて戻る女性もいる。

後で調べてわかったことだが、サパからラオチャイ村までは17kmほどあるそうだ。とても歩けない。

トウモロコシ畑があった。最高峰のファンシーパン山のある方角の山々の峯は雲に隠れている。

それでも雲の切れ目に、ほんの少し青空がのぞくこともある。

谷から湧き上がる雲は、まるで生き物のようで、ずっと見ていても飽きることがない。

この道をそのまま進むことは無理なので、いったん元の道に戻り、今度は谷へと下りる道をとることにする。途中で馬と牛を追う少年と出会う。

細い道を下っていくと、途中の斜面に、墓石や死者を埋葬したと思われる盛り土がある。墓地のようだ。この辺りは土葬の風習があるのだろう。

谷の下の方を眺めると、黒モン族の人たちの家が散在している。

斜面にはきれいにライステラスが作られている。

谷へ続く道をさらに下る。ブタやニワトリが飼われている。男性が屋根の修理をしている横を通る。藍染めの木の樽が庭に置かれている。山から引いた水が金盥からあふれている。

年輩の女性が急な坂道を力強くのぼってくる。トウモロコシ畑に行くようだ。上から下りてきた青年が話しかけてくる。谷の下の村を指さして「catcat」と言っている。3日前に行ったカットカット村だ。

少しずつ青空が見えてくる。しかし日が照り出すと暑い。雨は嫌だけど、暑いのもつらい。まあ、ぜいたくは言わない。
これ以上谷の方に下りると帰りがたいへんなので、サパの町に戻ることにする。この美しい景色をまぶたに焼き付けておこう。

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