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track27 anger-怒り-

 この言葉を耳にした時、あるいはこの言葉を聞いた時どんなことを連想するだろうか?
恐らく多くの人々はマイナスの想像をするだろう。かくいう私もそうだ。
自分に向けての怒りなのか?もしくは外に向けた怒りなのかでその明暗も別れると思う。
 先日の反骨精神という記事を書いたが、これもあまりよい感情とは言えない。
というのも、側面だけ見ればマイナスに捉えられるからだ。
反骨精神には「それでも」という接続詞がつく。これによってマイナスのパワーをプラスに転嫁していると思う。

 音楽にしてもそうだ。
私の好きなDIR EN GREYはデビューから一貫して人の「痛み」を表現することに徹底しているアーティストだ。
 痛みも決していい感情とは言いがたい。サウンド面においてもヘヴィーでダークなサウンド、歌詩においてもグロテスクな連想をさせる表現やMVにおいては規制が掛かるほどのグロテスクなものもある。
 それでも彼らの音楽を聴くと心地よい。サウンドや歌詩とは対照的なほどに耳障りが良い時があるのだ。
きっと彼らが紡ぐ音楽にも痛みの先にある「それでも」という希望があるからだと私は思う。
次に私の好きなamazarashi。
彼らも決して明るい歌を歌うアーティストではない。
むしろそのバンド名通り、雨晒しで挫折して、希望も見出せなくなっている状況が歌われることが多い。
 でも彼らのサウンドにも歌詞にも「それでも」がつくのだ。
不思議と背中を押される瞬間がある。もしくは、自分のことを歌っているかのように涙が出る場面があるのだ。

 これを言っては身も蓋もないけれど、結局は「捉え方」の問題なのだ。
さて、本題のanger-怒り-について話そう。
私はこの2年間ずっと怒りを保ち続けてきた。
 それは外側に対してだったり、自分自身に対してだったり、時と場面により様々だった。
 反応しないことを試みたこともある。
しかし、自分を殺された気がして上手く出来なかった。
最近では「尖っていたい」とも思えるようになった。

 先日足を運んだ、コムデギャルソン。
いつも担当してくださる方が「立ち上がりを見て、パワーを受け取ってほしい」という思いから私のためにスケジュール調整をしてくれたのだ。
 
 24-25秋冬のオムプリュス(メンズ)のテーマはSPIRITUAL WORLD白は祈りの象徴である。
 私はすごくプラスの意味に捉えられたし、とても心地よいイメージを持っていた。
 それはルックを見てもそう感じたし、いつものコムデギャルソンからすれば、「優しい」表現だったのかもしれない。
 早速、店を訪れ、担当さんに挨拶もそこそにルックを見てチェックしていたアイテムを試着する。
3点ピックアップしていたアイテムがあったのだが、試着すると全て似合わなかった。
 そう、ファッションは着たい服が似合う服とは限らないのだ。
それは性同一障害で悩む人の感覚に近いのかもしれないと思った。
 私はメンズ、レディース関係なく店に来ると一通り目を通す。
時にはメンズ、ウィメンズ関係なく試着もする。これはどのお客さんも同じらしい。
 私の他にもご年配の二人組の女性が同じようにプリュスを試着していた。
コムデギャルソンウィメンズのショーピースを見てほしいとのことだったので担当さんと奥にあるコムデギャルソン(ウィメンズ)に上がる。
ウィメンズはコレクションを見ていなかったのでここで初めて目にすることになるが、私が見た第一印象は「エネルギッシュ」だった。
担当さんが言う「パワーとはこのことだったのだな。」と納得した。
 どのアイテムを見ても素晴らしい。
オムプリュスとは比較にもならないほど、私にはそう映った。

 24-25秋冬のウィメンズのテーマはanger-怒り-だった。
それで腑に落ちた。
きっと私の怒りと共鳴したのだ。
 本当にコムデギャルソンほど、スピチュアルで常に「尖っている」もしくは「攻めている」クリエイションをしているブランドは少ないと思う。
俗的な言い方をすれば、「こんないいものを見た、もしくは買ったから明日から頑張ろう。」
 少なくとも私1人をそう思わせてくれる洋服作りをしているブランドなのだ。
そして、それは洋服を買ってから終わるのではなく、買ってから始まるのだ。
「この服に負けない自分でいたい」
「この服を着ているから私はどこにでも堂々と行ける」
そういう風に背中を押すし、時に服に試されるのだ。
 怒りという感情がここまで人をプラスにさせる感情に昇華させることができること自体が素晴らしい。

 先ほどのご年配の女性二人と少ない言葉を交わす。

「コムデギャルソンっていいよね」

 この一言が私にとっての「それでも」なのだ。
少なくとも見えているものは違うが共感をしたのだ。

たかが、洋服だ。わざわざ高いものを買わなくても生きていけるものだ。
けれど、ここまで人の心を動かせるものなのだ。

私はanger-怒り-に背中を押され、店を後にした。

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