兄妹のお小遣い 悩ましい平等と公平の違い
うちには高校生になる息子と中学になる娘がいる。
初めての子ということもあり、息子は厳しく育てた。
小学1年生になった7歳に誕生日には、財布とお小遣い帳をプレゼントとして渡した。
今思えば小学1年生の男の子に財布とお小遣い帳をあげても喜ぶわけはないのだが、その時の私は息子の金銭感覚を育てる実用的で良いプレゼントだと思った。
7歳の誕生日を迎えた日からお小遣いを定期的に渡すことにした。
もらったお小遣いで自分の好きな物を買って、お小遣い帳に書く。
そう習慣つけることで、バランスよい金銭感覚が身につくはずだと考えた。
結果として高校生の現在どうなったかというと、小遣いの範囲内で身の丈に合った金銭感覚が身についたのではないかと思う。
ただ息子の側からすると、我慢をさせられた気持ちはあるだろう。
小学1年の時のお小遣いは低学年ということもあり、毎週土曜日に50円を渡すように決めた。
1ヶ月で200円のお小遣いになる。
初めてお小遣いをもらった息子はとっても喜んだ。
そしてその日のうちにリサイクルショップへ行き、50円の値札の付いたシナモンロールの小さなポシェットを買って3歳下の妹にあげた。
初めてのお小遣いを自分のためではなく、妹のために!
私は内心驚いた。
娘はお兄ちゃんから買ってもらった可愛いポシェットを首から下げてニコニコしていた。
そんな妹を見てお兄ちゃん気取りの息子も嬉しそうだった。
今思い返してもほほえましいエピソードだ。
翌週からは貰ったお小遣いは主にガチャガチャに使っていた。
2週間で100円貯まるので、隔週ごとにスーパーの隅にあるガチャガチャのコーナーからお目当てのものに100円を投入する。
息子にとってガチャガチャは、欲しいものが当たるかもしれない楽しいものだったのだろう。
ただ、毎回欲しいものが出てくるとは限らない。
欲しかったものが出てきたとしても、想像よりチャチだったりしてがっかりすることもあったのではないかと思う。
それに欲しいものが手に入ったとしても、子どもにありがちですぐに飽きてしまうことが多かった。
母である私はその様子を見ながら、これでいいんだろうか……と納得できずにいた。
数か月もすると部屋にガチャガチャの丸いプラスチックの入れ物と中身の小物が散乱するようになった。
自分のお小遣いなのだから何に使っても問題ないのだが、どうせならすぐに飽きてしまうガチャガチャではなくもっと有意義なものに使ってほしかった。
なので息子の学年が上がっても、お小遣いの使い道が気になり増額をしなかった。
普通は学年が上がるごとにお小遣いを増やす家庭が多いようだが、『うちはうち、よそはよそ』と、一般的な常識など意に介さず毎週50円のお小遣いを渡し続けた。
結局、毎週50円のお小遣い制度は息子が中学卒業する3月まで続いた。
息子はお小遣いの金額に不満を言ったことはなかったが、頑固な母に言っても無駄だと思っていたのかもしれない。
親の立場から言えば、働いて苦労したことのない子どもにお金の価値はわからない。
価値がわからないものを大事に使うことは難しいだろう。
私自身がお金に苦労した家庭で育ったため、子どもの小遣いとはいえ1円でも無駄に使うことが許せなかった。
そして与えることだけが愛情ではない、とも考えていた。
食事と同じ腹八分くらいの少し足りないくらいのほうが健全に育つはずだ。
普段食べるおやつや必要な物は家計費から購入しているのだから、子どもに渡すお小遣いは少額で十分だ、と。
妹である娘も当然兄に倣って、小学6年まで毎週50円のお小遣いを渡してきた。
娘が中学生になっても続けるつもりだった。
しかし、中学生の娘は兄のようにはいかなかった。
毎月200円の小遣いでは到底足らなかったらしく、親に言っても「お兄ちゃんもそうだったから」と請け合ってもらえず不満だったのだろう。
いつの間にかこっそり親の財布からお金を取るようになった。
それも管理の厳しい私の財布からではなく、金銭感覚がゆるい夫の財布から取っていた。
娘の小遣いでは買えるはずのない物が部屋にあった。
「おかしい……」
ざわざわした心で娘を問い詰めるが、頑として「知らない」の一点張り。
息子とは性格の違う娘にどう対応していいのか。
腸の煮えくり返る思いを必死に抑え、努めて冷静に考えた。
その時、子育て経験のある年配の方から聞いた話を思い出した。
「将来、家を支える男の子には多少お金の苦労をさせなさい。 だけど、女の子にお金の苦労をさせると意地が悪くなるよ」
今のジェンダーレスの時代にはナンセンスな言葉かもしれないが、今回うちの場合には当てはまるような気がした。
娘に「アンタのしたことはわかっているよ!」 という姿勢は見せつつも、お小遣いの金額の変更を決めた。
「10日に一度500円を渡す。 ただし毎回お小遣い帳を見せるのが条件!」
中学生に毎月1500円は多いほうではないが、娘の金銭感覚が不安だった。
娘はこの提案に納得した。
それ以来、怪しい行動はなくなったと思う。
ちなみに中学を卒業した息子は遠方の高校に進学したため寮生活になり、さすがにお小遣いの金額を見直した。
まとまった額のお小遣いをもらえるようになった息子はかなり嬉しそうだった。。
高校生になってからはさすがにガチャガチャにはまることはなくなり、お小遣いの一部で積立投信をしたいと言い出し、自分で銘柄を選んで毎月証券会社に入金するようになった。
これからの時代、投資に関心を持つことは良いことだと息子の金銭管理に頼もしさを感じた。
昨年の夏休みに帰省した息子が突然叫んだ。
「お母さん! なんで妹は僕の中学の時の7か月半分の小遣いを1ヶ月分で貰ってるの!?」
黙っておけばいいものを兄を羨ましがらせるために妹が言ったらしい。
シナモンロールのポシェットを買ってもらった兄への感謝はとっくに記憶にないらしかった。
「平等と公平の違いってわかるね?」
息子は納得いかない表情をしたまま、押し黙った。
息子の性格は正直で不器用ゆえに「言ったもん勝ち、したもん勝ち」な人に損させられることがままあるので、今回も息子からすれば理不尽な話だろう。
ただ子どもそれぞれ性格や能力が違うので、ケースバイケースな対応になってしまうことがある。
兄妹ずっと仲良くと「平等」に育ててきたつもりだけど……悩ましい子育てのエピソードのひとつである。
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