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たずねびとの授業実践を終えて

今日は5年『たずねびと』の授業実践を振り返ります。

1.問いランキング作り

私の授業では、1時間目に全文を全員で読みながら、疑問に思う文に赤線を引かせます。

その文をもとに、子どもの問いを出させるようにします。たくさんでますが、分類したり仲間分けしたりしながら、3つの問いをこちらで絞ります。

この物語は一人称綾視点で描かれているため、文章がそのまま問いになっているところが、3箇所あります。

アヤちゃんのことどうして何十年もだれも探しにこないのかな。(p.110ー2行目)
どうしてだれもこの子のことを覚えていないのか。(p.108ー1行目)
きっとアヤちゃんを見つけられるような気がしたのはどうしてだったのだろう。(p.110ー11行目)

綾視点に入り込みやすいため自然とこの3つには線を引く子が多く見られました。

そこから、みんなで考えたいものを3つ決めて、問いランキングを作ります。

子どもたちが考えた問いランキングは次のとおりです。

1位:どうして綾はアヤを見つけられる気がしたのか?
2位:どうして夢の中でかすった感覚がのこったのか?、どうして忘れてしまったポスターの夢をその晩見たのか?
3位:どうしてアヤちゃんのことを何十年も探しにこないのか。どうしてだれもこの子のことを覚えていないのか。

この3つの問いを解決しながら、この作品のメッセージを受け取ることを単元のゴールに設定しました。


2.どうして綾はアヤを見つけられる気がしたのか?

1位のアヤを見つけられる気がしたと書いているのは広島へ行く前の、一文に描かれています。気がするには理由がきっとあるということで、広島に行く前の綾に起こった出来事から考えるようにします。

子どもたちの見つけた理由は次のとおりです。

・夢の中でアヤの名前に手を伸ばしたが届く寸前で目が覚めて、紙が顎をかすった感触がまだ残っているような気がしたから、またポスターを見にいってるから。
・綾は不思議なポスターに引き寄せられてるから。


これらから、アヤが綾に対して探しにきてよということを死の世界から現在の世界へ訪ねてきているという解釈をしました。子どもたちは少しホラー小説を読んでる気分のようでしたが、時代を超えた死人とのつながりを捉えさせる上で、ホラーみたいという言葉を敢えて価値づけておくことは有効だったように思います。

ここで、夢に関連して2位のどうして紙が顎をかすった感触がまだ残ってるような気がしたのか。について考えました。

3.どうして夢の中でかすった感覚がのこったのか?、どうして忘れてしまったポスターの夢をその晩見たのか?

まず、このかすった感覚が残った『紙』ってのはどんな紙かを考えます。

子どもたちが考えたのは次の通りです。

『アヤ』という名前がふいに、うかんでみえた。
名前はまるで羽虫のようにたちまち消えてしまう。
なんという名前が読めない。

これらの言葉をもとに、いずれにしても、名前が繰り返されてることに目を向けます。ポスターに書かれた名前全てをここでは紙と捉えるように解釈しました。

この名前はこのときは掴めていないが、最後は?と問うと夢で見失った名前にもいくついくつものおもかげが重なってわたしの心に浮かび上がってきた。という一文から、最後には掴めているということを読みました。

ここまで読むと、夢でかすった感覚が残ったのはアヤとつながれそうでつながれなかった綾だったからという解釈に納得することができました。

そして、これが綾の変容の1つで、『はじめはアヤや名前でしかない人々とつながれそうでつながれなかったけど、最後にはアヤや名前でしかない人々が心に浮かび上がってくるアヤに変わっている』ことを読みました。

そこで、その変わった瞬間がクライマックスにあたるよねということを問い、クライマックスはどこか?を考えます。

4.クライマックスの一文を検討する

子どもが考えたクライマックスは次のとおりです。

・供養塔に手を合わせて、『アヤちゃんよかったねえ。もう一人のアヤちゃんがあなたに会いにきてくれたよ。』のところ
・恥ずかしくなって下を向いてしまった。ところ
・モニターにうつる子どもをみてつかのまその子と見つめ合った。ところ

この話し合いでは、アヤとつながったところと、他の名前でしかない人々とつながったところは、それぞれ違っていたのかもという子どもの言葉を尊重しました。
アヤとつながったところは手を合わせたところで
他の人のとはモニターをみたところということで全員が納得できました。

(私は、クライマックスの一文ははずかしくなって下を向いてしまった。そんなことは考えたこともなかった瞬間に、アヤが綾の中に入ったというように解釈していますが、ここは子どもたちの意見に押されてしまいました。)

5.どうしてアヤちゃんのことを何十年も探しにこないのか?どうしてだれもこの子のことを覚えていないのか?

ここで、原爆供養塔納骨者名簿(=ポスター)とは一体どういう意味なのか?を考えさせます。

原爆供養塔がどういうところか?と考えさせます。

・原爆で亡くなった人のお墓
・小山のように大きな土まんじゅうで芝が植えてあっててっぺんに小さな石の塔があるお墓

ここにはどんな人が入ってるのか?を考えさせます。

・身元のわからないおよそ7万人の人々
・名前だけがわかっている800人あまりの人々
・クスノキアヤ

身元のわからないとはどういうことか?を調べさせます。

・その人の生まれ

この時点で子どもたちはなるほど!となりました。
どういうことかを説明させます。

・生まれたところがわからない
・親も親戚もみんな原爆で同時に死んでるから
・原爆の破壊力のせいで顔がわからないから

ここまで読むと、全員が問いを解決することができました。

供養塔の場の設定は、この物語の内容理解の上では非常に重要であると考えられます。扱う時間はなるべく序盤が良かったのかと思います。 


6.作品のメッセージを伝え合う

子どもたちはここまで読んだ上で次のようなメッセージを受け取りました。


・戦争の恐ろしさを伝えていく
・戦争で亡くなった人のことを伝えていく
・世界中のだれもが二度と戦争を繰り返さないようにしよう
・戦争の恐ろしさやアヤちゃんや亡くなった人のことをずっと忘れないでおこう
・死んだ人も生きてる人の心の中で浮かび上がっていれば生き返る

あまりにもこの時点で受け取っているメッセージが
『戦争』や『原爆』に対する『怖さ』や『恐ろしさ』についての記述がほとんどでした。

最後に子どもたちに、戦争で亡くなった人だけ?や原爆を受けた人だけ?と投げかけると違うという子がいました。
どういうこと?と聞くと

『だって、俺のじいちゃん戦争で死んでないけどお墓参りするから、戦争で死んでなくても忘れないでおくのは同じ』と説明してくれました。

みんなはなんでお墓参りに行っているのだろうか?ときくと

死んだ人が天国へ行けるように祈るから
死んだ人たちの分まで生きるから
死んだ人たちみんなを忘れないように

というような意見が出ました。

成果と課題

成果は、この教材の良さを活かしながら問い作りができました。問いが文中に仕掛けられている点は扱いやすい教材だったという印象です。
また、子どもたちがホラー小説という見方をした時点で、死者との対話ができるようになった綾の変容を読むことができたのも良かったと思います。

課題は、この作品の主題に迫る場面での読みが戦争や原爆の恐ろしさ、怖さ、世界中のだれもが、などのインパクトのある言葉に引っ張られて過ぎてしまったことです。子どもが受け取ったメッセージを否定することはしませんでしたが、私は戦争や平和について語る主題は、読みが浅いと捉えています。たまたま、お墓参りの話題が子どもから出たので、時代を超えた死者とのつながりについて考える子はいました。しかし、これはあくまでも作品の外側から自分の経験に基づく考えであり、論理的な読みとはいえなかったと思います。

最後に

新教材である『たずねびと』には、ほとんど実践例がない中で、教材研究を1からし、子どもと共に試行錯誤して何とか終えることができました。
教材研究段階で私は、扉絵の言葉にひっかかっていました。
『あなたは、遠い時代や遠い国の人と、自分を重ねて考えたことはありますか。』
つまり、この教科書におけるねらっている主題は
『遠い時代に亡くなった人とのつながりを持つこと』ではないか。ということを想定していました。
単元目標には、『物語の全体像を捉え考えたことを伝え合おう』とあります。ここでの考えたことというのは、主題と捉えています。しかし、そもそも主題は書き手が与えるものではなく、読み手が受け取るものです。そして、その読み手は時代と共に変わります。つまり、子どもたちが受け取ったメッセージが、大人になってもう一度読んだ時にまた違った受け取り方をするものだと思っています。


初めての『たずねびと』の実践報告でした。
少し宣伝させてください。10/9にzoomでお伝えする予定にしてます。こちらの参加は無料です。もし、関心を持っていただけた方がおられましたら、ぜひTwitterのDMにてご連絡いただけるとうれしいです。

また他のクラスでの実践についても教えてもらえると勉強になります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。








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