KokugoNote #8 高2現代文・国語表現

哲学対話  20200115

皆さん、先ほどはお疲れさまでした。慣れない形式なので、ある程度予想はしていましたが、しっかりと質問をして回答していた人もいましたし、鋭い質問を投げかけることができた人もいたので、それは良かったと思っています。

最初から100点満点を目指すのは大変なので、質問することに慣れるまで、何度も似たようなことをしていこうと思っています。

考えるというのは、なかなか難しいことなのです。どうして自分はそう思っていたのだろう?そう考えていたのだろうか??と自分の心の中を内省する習慣ができたとき、少し世の中の見方が変わってきます。「わからない」「なんとなく」「たぶんそうではないかなあ」とごまかしていた頃と較べて、世の中の仕組みを捉えて、それを作り変えることができそうだという気持ちが沸き起こってくるからです。「大人になっていく」とは「自分ひとりで、自分の選択した結果に責任を持つ」ことです。そのためには、どういうルールで自分はプレイしているのかを知らなくてはなりません。自分の感情や考え方、振る舞いや話し方など、何によって規制されていたのか、無自覚だったことを言語化していくことが必要になるのです。

知らないことは、自分で知ろうとしなくてはいけないし、伝えようと思うことは、相手が上手にくみ取ってくれると期待しないで、誤解されないように伝える努力をしなくてはいけないのです。

さて、今回の目的は、
「質問をすることに慣れる」「話をしている人がいたら真剣に聞く」でした。皆さんはどうだったでしょうか?同じグループの人が私語ばかりを続けていたら、話をする人は何かを伝えようとする気がなくなります。反対に、同じグループの人がちゃんと耳を傾けていたら、ちゃんと話をしようと思えるようになります。話を聞くということは、自分が喋らないということです。真剣に相手の話を受け止めてから、次に自分が話すという段取りに慣れてください。自分の不安は自分で整理してから話をしてください。叱られるから、評価を下げられるから、などと他人の基準に振り回されるのではなく、自分でちゃんと基準を持ってください。

さて、前置きが長くなりましたが、内容のおさらいです。※別のメモ帳でまとめたものをコピペしたので、常体で統一されています。

 哲学対話を高2現代文の授業39名クラス(うち女子13名)で実施してみた。
 現在、見田宗介氏の「幸福について」という評論文を学んでおり、このテーマは、誰しも一度は考えるもので、海外の辞書にも掲載されるようになった「IKIGAI」に通じるものだと考えたからだ。

 まず事前にGoogleFormで初読アンケート調査を行い、それぞれの幸福感を言葉に表す練習をしてもらった。
 
 質問項目は次の通り。
 ①「現在、幸福か否か」
 ②「不満を抱えているか否か」
 ③「もし欲求が満たされ続けたら、自分はどのように変わってしまうと思うか」
 ④「ずっとほしいと思っていたものを手に入れた途端、興味を失ってしまう体験をしたことがあると思うが、それはなぜだと思うか?」
 ⑤「自分が幸せだと感じるためには何が必要だと思うか?」

 回答は次の通り。
 ①クラスの65%が幸せだと答え、可もなく不可もなしと答えた16%と合わせると、約8割が幸福だという結果が出た。
 *こちらはだいたい予想通り。ジョナサン・ハイト『しあわせ仮説』新曜社、2011年 でも同じような事例が紹介されていた。

 ②不満だと答えた2割は、その理由として、「お金がないこと」、「したいことが多すぎて時間が不足していること」、「寝る時間が少ないこと」、「勉強したいことを学校では学べていないこと」、「人の心を踏みにじっても平気な人たちが世の中にはいること」などを挙げていた。
 *若い人たちの悩みの多くは、物事に短期的な視野を持って真正面からぶつかっていくことで、自分の思い通りにいかないことが中心にあるので、こちらも大方予想していた通り。

 ③多くの意見がこうだった。
 「何事にもありがたみがなくなって、主体性を失っていき、虚無に陥ってしまう。」
 「当たり前でないことが当たり前になってしまうと、自分から新しく何かをしようとは考えなくなってしまう。」
 *現在の学校生活を十全だと捉えている生徒は少ないが、一方で何もかも満足させられると、乗り越えるべき困難を失ってしまうために面白くないだろうという予測を立てていることも、的確だと思われた。ワクワクするためには、失敗する可能性を秘めていることが必要で、うまく行くかどうかわからない不安定さが、感情や行動、思考を揺さぶるのだと理解しているようだった。

 ④主な回答例を挙げる。
 「自分は追いかけることが好きだったのだと気付いたから。」
 「自分が勝手に思い描いた理想像を追いかけていたのであって、それは実物とは最初から異なっているから。」
 「手に入れると、憧れがなくなってしまうから。」
 「ひとつの目標にもいくつかの側面があるのに、達成感だけで満たされると勘違いしていたから。」
 「これさえあれば他に何も要らないと思っていたが、視野が狭くなっていただけだったから。」
 *C.チャップリンではないが、悲劇にはクロースアップを、喜劇にはロングショットを」という訳だ。魅力を失わないでいるためには遠ざかること、知りすぎないことが必要ということか。

 ⑤同じく代表的な回答を挙げる。
 「自分の未来を見据えて必要かどうかを考えること。目先のことに縛られないようにするべきだから。」
 「自分の考え方を柔軟に変えていくこと。何気ない日常でも捉え方次第で前向きになれるから。」
 「自分と一緒に楽しんで毎日を送っていける友だちをたくさん作ること。本音で話せる友だちがいれば、お金も時間も今以上に求めることはないから。」
 「自由に使えるお金と、まとまった時間。今の生活はあまりにも不足しているから。」
 「ゲームに没頭している時間。何もかも忘れて集中できるから。」
 「つらくなるような出来事にはなるべく関わらないようにして生きていくこと。避けられないとは解っていてもできるだけ避けていこうと思うから。」
 「わからない」
 *短期的に物事を捉えてしまうことで、失うものが多いということに気付いた生徒も少なからずいて、この子らの一年前の思考と較べると、ずいぶん成長したのだなあと感慨深かった。「ゲーム」の子は大人の「パチンコ」と同じで、時間の流れをショートカットする非日常を味わっているのかもしれない。

 これらを踏まえて、哲学対話を行った。当日は欠席もいて36名だったので、9人1組で4グループに分かれて、始めた。
 目的は3あった。①質問することに慣れること、②真剣に話に耳を傾けること、③思考を深めること、だ。

 最初に、自分の考える幸福のイメージについて、順に発言し、発話者の次の2名が質問をするという形式を取った。所要時間は約15分。
 課題は、「話を聞いていた他の生徒が我慢しきれず質問してしまうこと」、「ここは突っ込みすぎて良いのだろうかと遠慮してしまい、内省を促すような質問ができていなかったこと」、「自分もあまり突っ込まれたくないので、無難なことを言っておこうとする生徒がいたこと」などがある。

 次に、アンケートの最後の問い、「自分が幸福になるには何が必要か」の回答から、それぞれのグループに4つの問いを投げかけた。
 まずひとつその問いについて意見を持っている生徒が話し始め、あとはコミュニティボール(これを手にした者だけが発言権があり、他に話をしたい人はボールを手を挙げてもらって発言するというもの)を受け取ってから、発言するという形式を取った。

 A「自分の幸せのためにはお金はいくら必要なのか?」
 B「自分の考え方を柔軟にするためには何が必要なのか?」
 C「つらい経験から立ち直るため必要なことは何か?」
 D「本音で話せる友だちを作るために必要なことは何か?」

 グループによって鋭い質問があったり、「わからない…」が続いたり、助け船を出す子がいたり、話を広げられる子がいたり、、だったが、今回は、手始めに、この形式に慣れること、話を聞いて質問できるように練習すること、自分がなぜこのような考え方をしているのか考えることを、目的としていたので、今後、この単元が終わる時に、再度、アンケート調査をしてみたいと思う。

以上


〈補足〉

①「自分にとっての幸せ」は必ずしも「他の人にとっての幸せ」ではないことに気づいてもらえたでしょうか?例えば、先生にとっては、本を読んで新しい考え方や知識を得ることは幸せですが、世の中には本を読む人はかなり少ないので、他の人にとっては幸せではないのかもしれません。先生は図書券を1万円分くらいもらえると興奮しますが、本に興味がない人はすぐに、チケットショップで換金しようとするかもしれません。
 
 「幸福」は一例ですが、何事も人によって捉え方が違うことを学ばなくてはいけません。
 今日の白紙の用紙は、こういう幸せの形があるんだなあということをメモして、自分なりに、なぜそれをこの人は幸せだと思っているのだろう?と考えてみてください。こういう地道な考えるトレーニングは繰り返すと、予測力を付けてくれます。
   

②お金がいくらあれば満足できる?愛情を与えられる人間になるには何が必要?     自分の考え方はどうすれば変えられる?つらい経験から克服するために何が必要?
 いずれの問いも今後の人生をかけて、10年20年かけて考えるべきテーマです。すぐにパッと答えられるものでもなく、答えられたとしても実感の伴わない浅いものになってしまいます。今、頭を絞って考えた答えが、また数年後には答えが違っているかと思います。何度も何度も自分に問いかけ直していくうちに、少しずつ自分が求めていたものが何だったのか、気付くことができたら良いなあと願ってやみません。できれば、学校以外の友だちとLINEなどで、このテーマで質問してみてどのように考えるのか、聞いてみると良いです。
 質問のチカラはとても強いのです。深く深く考えるきっかけを与えてくれます。また、考えることを一緒に楽しみましょう!

では!

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