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KokugoNote#35 図書室の話①

 皆さん、こんばんは。久しぶりの投稿です。新型コロナウィルス感染の蔓延により休校措置が取られて、かれこれ1週間ほどになりました。その間、先生たちは学年末追考査課題の発送や年度末の書類作成、新校舎引越しのための打ち合わせ・梱包作業などひたすらバタバタし通しでした。今も、おそらく次の2週間もバタバタです。今日は図書室の話をします。

 先生は図書室担当なので、約5,000冊の本を2人体制で梱包しています。休校措置になる前にお手伝いに来てくれた生徒さんもいて、その際はとてもとても助かりました。1日で2日分の仕事量を終えられるからです。本当は大勢で作業すれば、あっという間に終わるのですが、図書室の仕事は誰でも良い訳ではないのです。日本十進分類法という分類方法に基づいて、図書は書棚に排列(※「はいれつ」は図書館用語です)されているのですが、その秩序を維持しつつ、図書室内の蔵書バランス(例えば、「歴史」に偏りすぎたり、「文芸小説」ばかりが棚を占めたりしてはいけない)を考え、実際の授業内容や部活動、学校行事、進路などと関連した図書を整理しながら、梱包していかなくてはいけません。

 新校舎の図書室はおよそ4,000冊しか収納できません。教科センター方式になるため、各教科教室の書架にも設置することになっていますが、せいぜいプラス1,000冊程度です。現在の20,000冊から4分の1に絞らなくてはなりません。大学図書館が徒歩10分ほどの場所にあるからそちらを利用すれば良いではないかという意見があるのですが、大学生が利用する図書館は学術書が基本であって、高校生が図書に親しむのには不向きであるのは自明のことなのですが、なぜかそのように考えられていません。なので、新校舎図書室の図書と授業とを、今まで以上により密接にしていくより他にないなあと先生は考えています。

 読書をしなくても生きていけますが、読書をすればより快適に生きていけます。語彙量が増えて、表現力が身に付きます。こういう表現をすれば、伝わりやすくなるのかを知ることができます。他者に共感する感受性が養われます。多くの経験を読書から得られるので、自分が現実にその立場になくても、追体験をすることで心情を理解しやすくなります。人生の納得解を手に入れられるようになります。正しいかどうかはさておき、自分の腑に落ちなかったことを、自分がうまく導くことの出来なかった内容について書いている人に出会えることがあります。

 学校ではしばしば、読書をすれば学力が上がる、集中力が上がると喧伝する傾向がありますが、先生は必ずしもそうは思いません。目的なしに読む読書ほど有害なものはない。例えば、読書を勧める人は、どうしてこの年代にこの勧めたのかを考えていないことが多い。自分が面白いと思って読む本と、高校生年代(しかも自分たちとは異なる社会環境で育ってきた子どもたち)が面白いと考える本は明らかに違うはずなのに、それらを無視して、自分は良いと思うから勧めたのだと一点張りの人は少なからずいます。もちろん普遍的なテーマを持つ古典的な小説などは該当しますが、それには手引きが必要です。時代背景なり、当時の習慣なり、身分制度なり、考え方なり、歴史の勉強や古典の勉強なしに読むのは、なかなか難しい。

 例えば、先生はスタンダールの『赤と黒』は優れた小説でお勧めしたいと思っていますが、主人公ジュリアン・ソレルの生きたナポレオン戦争の時代背景を知らないまま読むと、なんのこっちゃ?と、躓(つまず)いてしまうので、西洋の近代史を勉強する前にはなかなかお勧めできません。高2の子たちは夏目漱石の『こころ』を勉強したと思いますが、担当の先生による明治時代の社会事情の説明を受けないまま、読書したとしたら、やはり、なんのこっちゃ?だったと思います。説明を受けても、なんのこっちゃ?だったかもしれませんが、それは現代人と当時の人々との生活環境の違いから来る考え方や感じ方の違いなどを丁寧に整理しなかったからだと思いますよ。

 話を戻しますが、要は、自分の知りたい内容を調べるように読むことと、当たり外れはあるかもしれないがとにかく手当たり次第読めばいいやと手に取ることとでは、雲泥(うんでい)の差があるのです。

 大切なのは、「自分が知りたいこと」をどうやって見つけるのかということです。これが「考える」ということです。基本的に国語の試験は、それはどういうこと?(What?)、それはなぜ?(Why?)のふたつの問いが基本だと常々口にしてきましたが、それを普段の生活の中で、探し続けるかどうかで、考える習慣が身に付くものだし、その疑問を解き明かす内容を探すために読書をするかどうかなのです。

 例えば(先生はよく「例えば~」を使いますが、これは皆さんも真似してください。抽象的なものごとを具体的なことがらに落とし込むことで理解は深まるものです)、今回、新型コロナウィルスの件で言えば、多くのデマや差別が飛び交っていますね。Fact(事実)とFear(恐怖)は違うのに、SNSやTV報道に振り回されています。厚生労働省のサイトは的確なのに、安易に感情を煽られてしまう。

 考えるために問いを作ってみましょうか。①「事実を確かめるためにはどうしたらよいか?」②「なぜ人はデマを信じてしまうのか?」③「休校措置は妥当だったのか?」④「パニックに陥ったら人はどういう行動を取ってしまうのか?」⑤「過去に同じ事態があった筈だが、その時はどういう対策を立てたのか?」⑥「自分が政治家だったら何ができたのか?」⑦「急に収入を失った人に対してはどういう救済があるのか?」⑧「休校を解除するためにはどういう条件が必要なのか」等々、あれこれ問いが出てきます。

 子どものままだと、自分で何も考えないで、大人が決めたことに不満を抱えて従うだけですが、皆さんは子どものままでい続けることはできません。成人年齢が2022年から18歳になるという民法改正のことはさておき、弥(いや)が上にも大人に近づいていて、それは避けられないのですから、早めに大人の思考を身に付けようとする方が何かと有利だというのは納得できると思います。ダメな大人になるために、皆さんの親御さんは息子・娘を学校へ遣(や)っているのではないのだから、少しでも成長した姿を見せられるように努力をしてください。


 先ほどの問いは、大人の思考です。番号を振ってみました。合わせて、おススメの図書を紹介しましょう。目的を持った読書とはそういうものだからです。

 ①「事実を確かめるためにはどうしたらよいか?」は「ファクト・チェック」や「メディア情報リテラシー」という概念を理解する必要があります。法政大学の坂本旬先生(よく知っている先生です)の本や文章を読んでみると良いと思います。こちらを参照してください。■https://jima.media/dif-of-media-literacy/ 

 ②「なぜ人はデマを信じてしまうのか?」と④「パニックに陥ったら人はどういう行動を取ってしまうのか?」については、実例から学ぶと良いと思います。■萩上チキ(2011)『検証 東日本大震災の流言・デマ』光文社新書は実例に基づいた優れた分析がなされている本でした。

 ③「休校措置は妥当だったのか?」については、議論の分かれるところですね。何をどのように判断して、政策として実施するのかは、安倍首相の言うように「政治的判断」に委ねられることが多い。うまく行けばお手柄になるし、失敗すれば詰め腹を切らされる。特に経済が停滞し、失業者を増やしてしまうことは、国民生活を守れなくなることに直結するので、何としても避けたい。どうしたら良いのか?これは「意思決定論」という学問領域の話です。こちらは専門書になってしまうので、その前の段階として、「選択」について考えることを勧めることにしましょう。■シーナ・アイエンガー(2014)『選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義』 (文春文庫) は、皆さんが読んでも参考になると思います。  

 関連して、⑥「自分が政治家だったら何ができたのか?」については、自分が総理大臣だとしたら何ができたか、考えてみてください。思考実験というものです。実際に、小中学生・高校生大学生の感染例は非常に少なく、感染の潜伏期間のまま知らず知らずのうちに広げているという事象が確認できているのかというとそうでもない。ただ万一、誰かひとりでも感染していたら学校中に拡散するのは間違いなく、子どもを通じて親に感染させてしまうと、経済や社会が機能不全に陥ってしまう恐れがあるというのも頷(うなず)ける話です。働き手への予防という意味で、休校措置を取ったのだと先生は推測しますが、皆さんはどうでしょうか?どの国でも政治的判断には批判が出ています。こちらの記事を読んでみてください。■https://wired.jp/2020/03/06/coronavirus-uk-schools-closed/

 ⑤「過去に同じ事態があった筈だが、その時はどういう対策を立てたのか?」高2の子たちには、■アルベール・カミュ(1947)『ペスト』新潮文庫 を紹介しましたね。新型コロナウィルスに伴って、かなり売れているようですが、追体験するには良い小説だと思います。 また、安倍首相が100年前のスペイン風邪の際の措置を参考に、全国一斉の休校措置を取ったと述べて、話題になりました。スペイン風邪とは、第一次世界大戦明けの1918年から1919年に約5億人の感染者を出したと言われる疫病です。こちらの記事(■速水 融(2006)『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』藤原書店、の解説記事)が参考になると思います。 ※先生もそうですが、基本的にパッと思い付く疑問については既に誰かが答えていると考えるものです。誰かの考えた文章を読んだ上で、さらに疑問を持つことができるかどうかが、チャレンジすべきところですよ。■https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyatsunehira/20200228-00165191/

⑦「急に収入を失った人に対してはどういう救済があるのか?」     国自体が起業を勧めておいて、仕事ができなくなり収入が途絶えた時に貸し付けはできるようにするよと言った安倍首相の言葉にそれはないよなあと、先生は思いましたよ。特にフリーランスの人たちについては全く理解していなかった答弁だったので、それにもびっくりでした。■https://blog.freelance-jp.org/20200304-7291/ まずは、経済学についての考え方を整理した方が良いと思うので、こちらの本をお勧めします。   ■新井紀子ほか(2006)『経済の考え方がわかる本』岩波ジュニア新書

⑧「休校を解除するためにはどういう条件が必要なのか」、これは現在、国会で審議されています。今日、萩生田文部科学大臣も検討に入っているという答弁をされていましたね。4月に入ったらすぐに解除できるのかと言えば、日々刻々と感染者が明らかになっている状況で、その決断は難しいと思います。開校した途端に感染が広がる恐れもあり、その際は再び休校措置を取って、またまた「どういう条件が揃えば開校できるの?」と堂々巡りになるからです。先生は厚労省のサイトや、感染症専門医のTwitter、海外のウェブで視聴できる報道などをマメにチェックしていますが、皆さんがすべきことは、いつ学校が始まっても大丈夫なように、自分で毎日、時間割を自作して、勉強を続けることです。学校に教材を置いているからなどと言い訳をせずに、スタディサプリやNHK for School、Try Itなどの学習アプリを活用して、勉強することです。

 今は市内の図書館も休館しているところが多いと聞きます。図書館で本を借りることができませんが、書店は開いていると思いますので、必要な本は購入してください。知識は必要とされる時にしか身に付きません。次回、図書館のことについて、話しますね。なかなか長くなってしまいました。

 

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