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文章を書くことは自分の一部。いかなるときも小説を書き続ける理由

気になるnoteクリエイターに、國學院大學メディアnote担当が「お話を聞いてみた企画」第10弾は、日々、noteに小説を書き続けているトガシテツヤさんです。
「文苑堂第1回54字の物語コンテスト」最優秀賞&特別賞、「第12回自作小説の一節コンテスト」最優秀賞など、数々のコンテストでの入賞経験を持つトガシさん。途切れることなく小説を書き続ける意欲はどこから湧いているのでしょうか。
トガシさんにとって「書く」意味とは何か、お話を伺いました。

――トガシさんは茨城から北海道に移住されて、今はまた茨城で暮らしているそうですが、移住の経緯を伺ってもいいですか?

2015年の「関東・東北豪雨」で鬼怒川が決壊し、当時働いていた会社の社屋が被災してしまったんです。その2年後の2017年に、会社が倒産してしまいました。その後、就職活動をしましたがなかなかうまくいかず、ちょっとリフレッシュしに旅に出ようかなと思ったんです。行くなら北海道がいいなとネット検索していると、PC画面に「北海道で働きませんか!」というバナー広告が出まして……。なんの気なしにクリックしたら、だんだんその気になってしまったんです。オホーツク地域の人口8000人の町で、役場の臨時職員を募集していて「道外の方も応募お待ちしています」とあったので「あ、俺、道外じゃん」と思って、応募したんですよ。

網走市の能取(のとろ)岬灯台

――縁もゆかりもないオホーツクに突然移住ですか?

はい。町役場で2年働き、次にオホーツクの別の町の観光協会で2年間働いて、その後はフリーランスのライターになりました。北海道に関する旅行記事とか、ドライブの記事とかを書いていましたね。

もちろん北海道は大自然があって素晴らしいところだったんですが、だんだん暮らしていたときはなんとも思っていなかった故郷・茨城が懐かしくてしょうがなくて、帰りたいという気持ちでいっぱいになったんです。だから移住したことで北海道を舞台にした小説を書いたかというと、むしろ故郷を舞台にしたものを書いたりしていました。『転がる石ころたち』という小説は、茨城への思いを込めた作品です。
結局、2024年に茨城に戻ってきました。今は以前やっていた物流の現場でフォークリフトを運転したりしています。

――小説を書き始めたのは北海道にいるときですか?

そうです。移住した直後は書いていなかったんです。それが、2019年に突然書き始めました。
ある日、車を運転していたらラジオドラマが放送されて、聞いていたらものすごく感動してしまったんです。そうしたら無性に小説を書いてみたくなって、というか「書ける!」という思いが湧いてきて、家に帰ってすぐパソコンを開いてバーっと書いて、小説投稿サイトにアップしました。それ以来、小説を書き続けています。

――それまではまったく小説を書いていなかったのに突然??

そうなんです。今まで閉じていたふたが、パカーンと開いた感じですかね。ライター業をしていましたが、そもそも文章を書くこともそれほど得意ではありませんでした。だからなぜ小説を書くようになったかは自分でも分からないんです。
「これを書こう」という欲求も、いつ来るか分かりません。トイレや風呂に入ってるときやコンビニで買い物してるときとか……。突然、物語が現れて書かずにいられないって感じです。むしろ、こんなに書きたいことがあるのになんでそれまで書いてなかったんだ? と自分で不思議になるぐらいです。

トガシさんの執筆スペース

――そうなんですね。小説はどのように発表しているのですか?

書き始めた頃は、いくつかの小説投稿サイトにアップしていましたが、今はnoteに集約しています。短編小説をいろいろ書いています。また個人の方がやられているお題企画にもよく投稿します。私は「たらはかに」さんという方が開催している「毎週ショートショートnote」というお題によく参加させていただいています。これは1000文字以内で書くことの訓練も兼ねているところがあります。54文字で物語を書く「54字の物語」や「140字小説」(注)も書いています。エッセイとか、日記のようなものを書くこともありますが、基本的には小説をnoteに載せています。

おかげさまでいくつかのコンテストで入賞や最優秀賞をいただいてきました。2022年には「文苑堂第1回54字の物語コンテスト」で最優秀賞と特別賞、今年はX(エックス)で開催されていた「自作小説の一節コンテスト」で最優秀作品に選ばれています。

2022年に受賞した「文苑堂第1回54字の物語コンテスト」の賞状

――書くことのルールを何か決めていらっしゃるんでしょうか?

書き始めた当初は「今日はもうだめだ」とやめてしまうこともあったんですが、そうすると1週間ぐらい書かない日が続いたりして、これじゃいかんなと。今はとにかく1日1本、300字程度でもいいし、内容も詩でもエッセイでもいいから、とにかく何かを書くことを自分に課しています。そうすると自然と体が書くモードになり、書くことが苦痛じゃなくなって、習慣になってくるんです。

――会社員との兼業で書く時間の捻出が大変なのでは?

そうですね、まず1日8時間から9時間は仕事をしています。あと、睡眠時間が8時間として、残りの時間はすべて小説に使いたいんです! ですからスーパーで買物もせず、ネットで食事用のスティック用栄養補助食品を山ほど買って、かじりながら書いています!

食事して、その後テレビを見たりするともう、ダラダラ過ごしてしまいますからね。とにかく起きている時間はできる限り書いていたいんです。とにかく、書く。書き続ける。プロの作家さんもみなさん口を揃えて「書き続けることが大切」とおっしゃっているし、何があっても書き続けるという熱い思いを持って書いています。

勤務先にて

――すごいですね! なぜそこまで小説を書くことに情熱を注げるのでしょうか?

そうですね……。最初の頃は、書くことでストレスを発散しているような面もありました。でも、今は書いてアップして残すという行為は「あ、これ、自分の意志とは関係なく、自分から生み出されたものはずっと残るんだ」と思うようになったんです。今日自分が死んだとしても、ネットに自分の作品が残っていること、それをいつか誰かが読んでくれるかもしれないこと、それは“自分の生きた証”を残せることなんじゃないかと思っています。私は今45歳ですから、どこかで死を漠然と感じながら生きていますからね。
私にとって小説を書くことは自分の一部であり、生きがいであると言えますね。

――noteの創作大賞で最終選考にも残った『ノクターンによせて』はトガシさんにとってどんな作品ですか?
 
私はかつて、ピアノサークルに参加してピアノを弾いていました。そのときに出会ったピアノ教室の先生の言葉が、ずっと頭に残っていてそこから発想して生まれた物語です。簡単に言うと、自分よりもすごい才能を持った人に出会って、嫉妬心が生まれるけど、それを超えてどう自分の成長につなげていくかということを書きたかったんです。今までのように書きたいことを書きたいように書くのではなく、「賞を取るぞ!」という気合いを入れて、人がおもしろく読んでくれるかを最優先して書いたものだったので、受賞できなかったことは残念でした。
……といいますか、もっというと、超絶くやしかったです! くやしかったし、受賞した方(じつは、noteでやり取りをしていた方でした)に対して「おめでとう!」という気持ちももちろんありますが、猛烈に嫉妬もしました(笑)! 

私は大谷翔平に嫉妬なんかしません。だって全然別の世界の人ですからね。でもこの小説は、一度は中間選考を通過して、受賞者と同じ土俵に載って、そして、落ちた……。くやしいですよ〜〜! 嫉妬も湧きますよ。でもこの嫉妬は、いつか自分も作家になる、デビューしてやるという気持ちがあるからこその嫉妬です。やれるはずだ、俺は! と思っていますから。次は俺の番だからと信じて書いているんです。
 
さっき「生きた証として残っていればいい」と言いましたが、それは本音ですがカッコつけている部分もあります。本心は本気で作家になる、直木賞を取る、大ベストセラーを書いてやるッ! と思っています。生きているうちに成果を出したいですッ!!

ピアノを演奏するトガシさん

――熱い気持ちが伝わってきました! ところで、今はどんな小説を書いているのですか?
 
昨年も応募したあるコンテストに出すための作品を練り上げているところです。今回は仕事でずっと関わってきている物流の現場の話も入れて書いていこうと思っています。今は賞を取りたいと思っているコンテストにだけ応募しています。
コンテストに応募する作品は、初出作品が条件なのでnoteには載せません。noteを見てくださっている方の目に触れるのは受賞したときか、もしくは残念ながら落ちた場合。そうしたらnoteにアップするつもりでいますから。
 
――受賞作として読めることを楽しみにしています。たまには野菜やたんぱく質も食べてくださいね……。ありがとうございました。

注:「54字の物語」は企画作家の氏田雄介氏が発案。「140字の小説」はTwitter(現在はX)で生まれたネット発の短編小説のジャンル。

トガシテツヤ
 茨城県出身。物流倉庫でフォークリフトを運転するかたわら、日々、小説やショートショートなどを執筆してnoteに投稿している。「文苑堂第1回54字の物語コンテスト」最優秀賞&特別賞、「第12回自作小説の一節コンテスト」最優秀賞受賞。note創作大賞2023では最終選考に残る。趣味でピアノをたしなんでおり、好きな音楽家は西村由紀江。
note https://note.com/t_design04/

取材・文:有川美紀子 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學