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予測と結果を取り違える人々

 新型コロナウイルスの感染者数が突然減少し始め,シミュ―レーション結果に基づいて人流の8割削減を主張した西浦教授に批判の声が上がっています。しかし,真に批判されるべきは,シミュレーションをした研究者ではなく,それを実際の判断に利用した人々です。シミュレーションそのものは,たとえそれが間違っていても,単なる予想だから非はありません。シミュレーションとはそういうもので,だからいくらでもパターンを作れます。

 批判されるべきは,シミュレーションの予測を結果と誤解したシミュレーションの素人である医療専門家や,このような専門家に判断を丸投げしている政治家です。感染症などの医学の専門家が,シミュレーションの数値を,結果と誤読して,頓珍漢な事象を感染症拡大の原因であると主張したことと、このような人たちに政策判断を委ねたのは重大な錯誤です。

 シミュレーションは,人流が原因であった場合の感染症の拡大を予測するものですから,その予測を見て人流が原因であると錯覚するのは,完全なトートロジー(同義語反復)で,思考が停止しています。このような勘違いは分科会の尾身会長をはじめ,テレビに頻繁に出演している医師の資格を持つ専門家に非常に多いです。人流が減っていないのに,感染が減るなんておかしいと,本末転倒の主張をする医療専門家がいるほどです。

 私も,尾身会長の接種証明書(ワクチンパスポート)の活用案に関する記者会見を見ていた時に,彼が,京都大学の若手の経済学者にシミュレーションの説明をさせているところを見て,この人はシミュレーションについて何も分かっていないと思いました。それどころか,シミュレーションの予測を,何か実質的な結果のように扱っていて,もし,前提が変わるとすべてが変わることと、その前提に客観的な証拠がないことをこの人は分かっているのかと心配になりました。

 医療の専門家がこのような誤解をすることは,過去の治療と回復の数値データを見すぎてきたため,単なる将来予測に過ぎないデータを,過去の証拠に基づく分析結果のようにとらえているからではないかと思います。そうでなければ,何の証拠もないのに,人流を抑制せよとか,酒を出すなとか,そんなことは専門家としては恥ずかしくて言えたものではありません。

 最近は感染症の専門家の分科会に経済学者を招いてシミュレーションさせているようですが、状況を一層悪化させています。経済学者の行動モデルは利潤最大化という極めて単純なものなので、人体やウイルスのような複雑な現象には全く使えません。しかし、シミュレーションを使えば、どんどん「科学的」に彼らの立場を強化できるため、悲観的な予測ほど採用されやすく、それが必要のない多大な損害をもたらしています。

 これはコロナだけではなく、地球温暖化も全く同じ構造です。シミュレーションだけで政策が決められています。コロナはまだ間違いがすぐに分かるのでマシかもしれません。これを機会にシミュレーションの意味を抜本的に見直すべきです。


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