PTSD

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戦争は常にどこかで起こり、多くの人が亡くなっています。
たとえばここ数十年、紛争地域の戦闘で死亡したアメリカ兵は数千人と言われています。

最先端の兵器のおかげで相手国より戦死者が少なく、いつも争いに勝っているように見えますが、その裏には意外な事実が隠されています。

実は、アメリカに帰国後、「自殺」をしてしまうアメリカ兵の方が、戦闘で死亡した兵士より多いんだそうです。
10年前のデータでは、イラク戦争以降のアメリカ兵の戦死者6500人に対し、帰国後に自殺したアメリカ兵は8000人を超えたということです。


「腕を失う、視力や聴力を失う、ケガの痛みがなくならない」などの身体的な理由もあるかもしれませんが、肉体的に健康な人でも自殺者は絶えず、その主な理由が「心の苦しみ(PTSD)」によるものなんだそうです。


「人を殺してしまった・自分が殺されかけた・戦友が死んでしまった・悲惨な状況を目の当たりにした・極度の緊張にさらされ続けた」など、戦地から戻っても、ふとしたきっかけでそのときの風景や感覚が蘇ってしまい、いつまでも身体の中から出ていかないんです。

強烈なフラッシュバックと、それに加え、ケガの痛みや将来の不安などが、自殺(場合によっては殺人も)に発展してしまうわけです。

戦死した人数が6500人、そして帰還後に自ら命を絶った人が8000人・・・「敵」を倒すために死んでいった人より、敵を倒すために負ったストレスで自滅してしまう人の方が多いなんて、争いに勝者などいないんです。


生還した本人にとってはもちろん、家族や関係者のことも考えれば、二重の悲劇どころか多重の悲劇です。


※日本の自衛隊員の自殺率も平均的な数より多いのは事実だそうで、海外に派遣され過酷な任務を負った自衛隊員ほど自殺率が上がるということです


「自分さえよければいい」という利己主義が争いを生み出します。
そして争いが生み出すのは、被害者のみです。
被害者は心の傷が癒えずに苦しみ続けます。
争いに勝っても、結局は「負け」なんです。



◎内側の敵


マスターがよく聴いているロックバンドが、「PTSD」について発信しようと、アメリカの退役軍人の話を元に作ったオフィシャルMVがあります。

「The Enemy Inside」という曲で、日本語だと「内側の敵」という意味になると思います。

MVは、戦闘を経験した退役軍人たちのインタビューと「BASED ON THOUTHANDS OF TRUE STORIES(何千もの実話を元にした)」という言葉から始まり、最後に、彼らの現在の様子が簡単に紹介されて終わります。

MV本編は、帰国した兵士が悪夢で目覚めた寝室のシーンから始まります。
日中、筋トレをしたりスポーツをしたりして、自分の「内側の敵」になんとか勝とうとする様子が描かれています。
しかしフラッシュバックは生活のあらゆる場面で現れ、身体が反応してしまいます。
周囲から「ヘンな人」と見られ、家族にも理解が得られない様子も描かれています。


マスターはこのMVを見て、戦争で受けた心の傷は、自分も家庭も壊してしまう深いものだと感じました。
※帰還兵のPTSDについては、アメリカの「ランボー」という映画が有名です。この映画は、ベトナム戦争からアメリカに戻った帰還兵の話で、映画が始まって間もなく、留置所で「フラシュバック」が起こるシーンがあります。


自殺をする人は、強いストレスを抱えている人の一部ですから、PTSDで悩んでいる人は、この何十倍もいるはずです。
また、自殺しない人は「幸せだから自殺しない」というわけではなく、苦しくても生きようと、必死に「内側の敵」と戦っている人がほとんどだと思います。

実はマスターも、生活に悪影響はありませんが、5年前の胆のう摘出手術の後に発症した軽いPTSDの症状が今でもあります。


戦争をすれば「戦争をしなければよかった」と誰もが気づきます。
しかし、それを学ぶために自分の命と引き換える必要はあるんでしょうか。


勝っても負け・・・歴史から充分に学べるはずです。


◎シンガーソングライター横井久美子さんの訃報

以前、ヤフーニュースを見ていたら、知っている人の名前が目に留まりました。

「横井久美子」さんというシンガーソングライターなんですが、彼女を紹介した記事には、「ベトナム戦争で米軍が使用した枯葉剤の被害児を支援するコンサート活動などで知られている」とありました。
彼女はその他にも、マスターの父が住むネパールで長く活動をしていて、マスターの父の友人でもあるんです。
父の活動に興味をもってくれ、ネパールでも音楽活動をしていた時期があり、父の口から「横井久美子さん」という言葉を聞いて彼女の活動を知っていました。


ベトナム戦争は、事実上アメリカが「敗戦」した戦争です。
横井さんはベトナム政府から「ベトナムを勝利に導いた国際的友人」として「国際平和友好勲章」を受けたことがあるんだそうです。
しかし彼女はきっと、ベトナムを勝たせたいと思っていたわけではありません。
それじゃアメリカの敵になってしまいますしね。
彼女はきっと、困っている人を助けたい一心だったと思います。
ベトナム戦争は、ベトナムが勝ったことになっていますが、フラッシュバックやPTSDで苦しんでいるのは、ベトナム人もアメリカ人も同じです。


ベトナム戦争と言えば、マスターの知人にも18歳でベトナム戦争に行った日系アメリカ人がいます。
今から20年ほど前のことですが、彼は「猿のイタズラが頭にきたから猿を捕まえてボウガンで殺した」とか、「獣道に穴を掘ってその中に入り、イノシシが通過した瞬間に下から突き刺して殺すんだ」など、マスターにとってはけっこう過激な話をしてくれたことがありました。
聞いていて気持ちのいい話ではありませんでしたが、彼にとっては「正義」ですし、動物の肉を食べる人はみんな、間接的に生き物を殺していることを考えると、「特に異常なこと」とも言えませんでした。


そして彼も、「PTSD」に悩んでいるとのことでした。
妻が彼と話したとき、「帰還兵はみんなオレみたいなヤツばっかりだよ(笑)」と言っていたそうです。
後日、彼が竹林の中で自殺未遂をしたというニュースも聞きましたが、一命をとりとめたとのことです。

話は戻りますが、横井久美子さんは、アメリカ軍がベトナム戦争で使った枯葉剤の被害を受けた子どもの支援をし、一方、ベトナム戦争で枯葉剤を使ったアメリカ軍人だったマスターの知人は、PTSDに悩んでいるわけです。


もし横井久美子さんとマスターの知人が会ってお互いに身の上話をしたら、どんな話になったんでしょうか。

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PTSDは多少なりとも誰もが抱えている問題かもしれませんし、ちょっとしたきっかけで誰もが発症する可能性があります。
人間はみんな弱いところがあります。
マスターは、人間は争うのではなく、弱い部分をいたわり合い、できるだけ協力し合って生きていけたらと思っています。

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