20歳夏、東京-11

相変わらず東京生活の合間、月に一度、彼のもとに通う日々が続いていた。


1200kmの距離を越えて、空港に降りたち、バスと歩きで1時間。彼の家についてわたしが始めることは、いつも部屋の掃除だった。


元々彼は綺麗好きな方ではない。

東京の家だって台所はよくわからない汚れだらけだったし、ベッドの隙間なんて何年ものだかよくわからないくらいのホコリの層が出来上がっていた。

それでも、一応何らかの秩序を持って物が置かれていたのが彼の東京の家だった。


でも、4月からの彼の家は違った。


荒れ放題になった家。

顔色が悪く、肌が荒れている彼の姿。


彼が弱音を吐くことはなかったが、仕事がかなり辛いことは言外からひしひしと伝わってきていた。


商店街でご飯を食べて、九州独特の湿度の高い夏の夜をサンダルでぺたぺた歩きながら家に向かって歩く。

一緒に歩く時、手を必ず繋ぐのは彼の習慣だ。

むわっとする風を受けながら、日が暮れたばかりの薄明かりに包まれる街をこえ、幾多もの坂をのぼり、下り、家の下のコンビニでアイスを選ぶ。


ケーキも買っちゃおうか。甘党の彼が言う。


家に着くと、東京の時と同じようにタオルケットに二人でくるまって、最近起きた出来事や少し近いふたりの未来の話をした。






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