【短編】ここは異空間喫茶店 滴
通り過ぎるだけの街
住んでもいない限り
この場所をのんびり歩きに行くなんて事を
想定しない街
偶然にも
必然にも
こんな街にいる。
肌寒い季節、
私の住む隣の市では、路面は雪で覆われていて朝晩には凍りついていた。
この街には雪の欠片も落ちていなかった。
指定された病院で検査を受けに来た。健康診断のような検査だ。看護婦さんの捌きがよく、思いのほか気楽に終わった。
昼食をしようとGoogle mapで検索をする。
Googlemapは最新の人気の場所を教えてくれる。ここに行ってみよう!
そうは決めてナビ開始ボタンを押す。
矢印の指し示している方向へと歩いて行く。
再びナビを確認するが、矢印の指し示す向きが真逆になっている。すでに10数メートル進んだところで気づいた。
「Googlemapは、歩行者には優しくない・・・」
そう呟いて立ち止まる。
振り返ってスタート地点を確認したが、折り返すのも癪な気分になった為、思うがままに歩いてみる事にした。
歩いていけば、何かお店はあるだろう。
テクテクと進むと、遠目にファミリーレストランがあった。
「コーヒーも飲めるし、そこでいいかな」と、人気店ではなく、慣れ親しんだ安心感という妥協に走る。
そこへと向かう途中、自分の真横にある建物が目に留まる。
お店?お店のように整えられてる自宅?
気になりよく観察し始める。
喫茶店のようだった。
いつもは、へぇーと、通り過ぎるだろう。何故か不思議と興味がある。
ランチの金額も書いてない。
ランチがあるかもわからない。
でも興味がある。
ドキドキとワクワクする感覚を覚え、気がついたらお店のドアノブに手をかけていた。
扉の向こうには時空を超えた景色があった。
うわ〜!!
心の中が歓喜している。
先客と目が合う。
失礼ではあるが、お客がいた事に驚いた。
不思議とここには私の知る現実感を感じられない。
まるで絵を見ているよう。先客さえも絵の一部のようだった。
飽きない風景。
周りを見渡してみる。
剥製や金色の大黒天様だと思われる像、赤い絨毯、そして、コーヒーの香り。
「いらっしゃいませ。」と、いう声にハッと我に返り入口横の席に咄嗟に座る。
メニューとお水を持って現れたのは白髪のマダム。何故か目を見ることが出来なかった。
この店の空気と同じ空気を纏う。
この喫茶店だけでなく、マダムにも興味が湧いてくる。
お店で注文することは無いオムライスとコーヒーをお願いした。
綺麗な白髪のマダムは
「奥の方が明るくて素敵ですよ。」
案内されるがままに、お店の一番奥へと向かう。
「わぁ〜素敵!」
たった1人で広めの空間にある席へと座る。
ようやく、落ち着いてきた・・・。
ここは異空間だ・・・。
時の流れが違う・・・・・・
オムライスを食べながら、この店の雰囲気は、トーストよりもオムライスが合う。
私の選択は間違ってなかったと、1人で思っていた。
タイミングよく食後にコーヒーがくる。
私は興奮してしまった・・・。
ここは、魔女の住む館だ。
なんだ、このカップ。
なんだ、このミルクと砂糖入れ。
ここはやはり魔女の館だ!!
心の中はアトラクションの最中だった。
ふわぁっと香るコーヒーの香り。
この空気感だけでコーヒーが一層美しく感じていく。
いつもはブラックで飲むコーヒーに魔女が使うツールを使いたくなってミルクだけ足してみる。
コーヒー1杯出されることでこんなにもワクワクした経験には出会ったことがなかった。
とても居心地のよい空間を堪能する。
美術館のような・・・
いや、それよりも纏まっていた。
魔女の美術館。
将棋の王将の大きな置物と剥製、うさぎのぬいぐるみ、全て統一されていない物達がこの空間では、全て調和されていた。
こんな空気感好きだ。
心地よいけど、シャキッとするような空気。
他にも人がいるのに、いないような。
1人にもたくさんにもなれる。
望むままになれる。
コーヒーの底が見えてくる頃に、
私は二言、三言しか会話をしていない
ここの魔女に尊敬の念を抱いていた。
魔女が作る異世界の扉は、
時を超えていた。
調和をしていた。
それは、ここの白髪の魔女の生みだす空気。
お支払いとともに
感謝と尊敬の念から一礼をした。
そして、私は扉の向こうの現実世界へと戻る。
ここがいつまでも在りますように・・・
再び訪れます。
珈琲を入れる魔女にお会いしたいと思うのです。
話さなくとも会いたくなる方、もっと知りたいと思うのです。
次回はカウンター席でお話を・・・。
会いたいと思う人は、空間をつくる人。
※トップ画像はお借り致しました!
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